2022.9.30 |
キムラユニティー株式会社
手書きの日報をOCRで読み取り、工数や能率などを自動集計
前日の作業状況を精緻にデータ化して倉庫業務の即時改善に活かす
物流企画部 部長の鈴木成忠さん、同じく物流IT推進室の辻晶子さん。
物流企画部 部長の鈴木成忠さん、同じく物流IT推進室の辻晶子さん。
物流・情報・自動車・人材の4分野で複合的かつ多彩な事業を展開するキムラユニティー株式会社(愛知県名古屋市中区)では、中核となる物流事業において業務用スキャナー「fiシリーズ」とAI-OCRソフトウェア「DynaEye」を活用した「OCR日報システム」を自社開発し、日報集計の自動化を実現しています。同社の拠点の一つ「上丘物流倉庫」(愛知県豊田市)の物流企画部を訪ね、10年以上稼働して業務を支える「OCR日報システム」と、新規導入の「OCR納品書読取システム」についてうかがいました。
キムラユニティー株式会社
物流企画部
業種:物流
拠点数:国内29、海外8(2022年7月現在)
- 課題
- 倉庫業務において、最大300名の従業員が提出する作業日報の集計に多大な手間と時間を要していたため、事務担当者の作業負担が大きかったほか、集計結果に基づく改善が即時にできないという問題があった。
- 解決法
- 業務用スキャナー「fiシリーズ」とAI-OCRソフトウェア「DynaEye」を活用した「OCR日報システム」を自社で開発、OCR用の手書き日報シートとともに全17拠点に導入。
- 効果
- 夕方近くまでかかっていた集計作業が午前中で終わるようになり(時間にして70%減)、集計結果の素早いフィードバックも実現。作業工程の即時改善が可能になった。
1.「OCR日報システム」で取得したデータを勤怠管理、生産性管理、請求などに活用
キムラユニティー株式会社 物流企画部 部長の鈴木成忠さんと、同じく物流IT推進室の辻晶子さんにうかがいます。最初に物流企画部事務所のある上丘物流倉庫の位置づけから教えてください。
鈴木さん当社の物流サービスは企業を対象としており、当社所有の倉庫をお客様にお貸しして倉庫業務も請け負うものと、お客様が所有する倉庫の業務のみを請け負うものとに大別されます。上丘物流倉庫は前者に相当し、当社物流サービス事業の拠点の一つです。現在、上丘物流倉庫は自動車メーカーと陶器会社にお貸ししており、ともに保管・入出庫業務も当社が請け負っています。
物流企画部 物流IT推進室はどのような役割の部署でしょうか。
辻さん物流サービス事業における社内現場向けのシステム開発を行う部署です。物流サービス関連部署で業務効率化を行うときなどに当部署が相談を受けることが多く、その際は該当部署が抱える問題点をヒアリングした上で、こちらの意見も加えて解決方法を考えます。
その一つである「OCR日報システム」は「fiシリーズ」と業務用OCRソフトウェア「DynaEye」を活用したもので、辻さんがシステム開発を担当され、2010年頃から稼働しているとうかがいました。その概要を教えていただけますか。
辻さん「OCR日報システム」は、倉庫の現場作業者が一日の勤務時間に何の作業を行ったかを把握するために開発しました。もともと当社では、工数や能率などのデータを取るため、作業者がその日に行った入出庫作業などの工程や所要時間を、日報として提出する決まりになっています。ところが、その集計を事務担当者が手作業で行っていたため、非常に手間と時間がかかって悩みの種になっていました。そこで開発したのが、OCR対応の手書き日報シートをスキャンして「DynaEye」でOCR処理し、自動で集計する「OCR日報システム」です。
現在このシステムは国内29拠点のうち、上丘物流倉庫を含む17拠点が採用しており、取得したデータを勤怠管理、生産性管理、お客様への請求などに活用しています。
鈴木さん倉庫業務において工数管理は非常に重要です。特に近年は働き方が変化し、パート作業者の方々が複雑なシフトで現場に入るようになっているため、正確なデータを取ることの重要性はいっそう高まっています。また、データの取得はお客様との契約における適正な単価設定の根拠になると同時に、増益に向けた改善の基盤にもなります。「OCR日報システム」の開発は、我々の仕事の根幹に関わる重要な成果でした。
「DynaEye」の組み込み用パッケージ製品を利用してシステムを開発されたのでしょうか。また、「OCR日報システム」を採用している17の拠点すべてに「fiシリーズ」を配備しているのでしょうか。
辻さんそうです。「DynaEye」は開発者向けのシステム組み込み用モジュールを利用し、システム内でシームレスに使えるようにしています。現場の要望を満たすシステムを自由に作りたいとき、「DynaEye」のように部品だけ提供してくれるのはとてもありがたいですね。スキャナーに関しては現在、17拠点に「fi-7160」を1台ずつ配備しています。
2. 拠点の要望に合った日報シートを作成して正確かつ精緻なデータを集計
「OCR日報システム」で使用する日報シートについてうかがいます。シートのフォーマットは17拠点共通でしょうか。
辻さんいえ、拠点ごとにレイアウトが異なります。基本的には作業工程に番号を振り、どの工程で何時間の作業をしたかを記入してもらいますが、ある拠点では工程数のデータが欲しい、別の拠点では時間数が欲しい、また別の拠点では定時と残業を分けて集計したいというように、取りたいデータの内容が拠点ごとに違うため、それぞれの希望に応じて用紙を作成しています。紙のサイズはA5かA4のどちらかです。
シートは数字・英字の書き込みガイド付き記入欄がぎっしりと、なおかつ整然と並んだ複雑なレイアウトですが、その作成も辻さんがなさっているのですか。
辻さんはい。その拠点にどういう工程があるのか、お客様に何をどう請求したいのかといったことをヒアリングして、「それにはこういうデータが必要」と逆算してレイアウトを組み立てています。レイアウトは拠点の要望に応じて、文字の大きさなど細かいところまで修正しながら詰めていき、出来上がったらPDFデータを拠点に送って、拠点から印刷を発注してもらいます。実際に使ってみて直したい点が見つかったら、次の印刷のときにレイアウトを修正します。
なお、作業者の方々に少しでも楽しく気持ちよく書き込んでいただこうと、シートはカラー印刷にして、色分けをしたりワンポイントのイラストをあしらったりしています。色のついた枠線など、読み取る必要のないものは「fiシリーズ」の「ドロップアウトカラー」機能を使って取り除いています。
鈴木さん彼女がいわばオーダーメイドで日報シートを作っているのも、前述のように現場の働き方が変わったからです。全員が8時半から働き始めて5時半になったら終業という時代は終わり、朝2時間だけといったように働き方が人それぞれになりました。それに伴い、データの取り方も細かくなったということですね。
工程の番号や時刻などをガイドに従って数字や英字で記入するほか、氏名の漢字なども手書きもするのでしょうか。
辻さんはい、誰の日報か目視ですぐわかるよう、氏名は書いてもらいます。ただ、システムでの集計は数字や英字で書き込まれた日付・社員番号・出勤区分・勤務時間などの情報で行います。
印刷する紙の質や厚みなども指定していますか。また、書き込むための筆記具は鉛筆でしょうか。
辻さん紙は一般的な上質紙で、厚みは普通か、やや薄手のものにしています。筆記具は主に鉛筆を使用していますが、消したときに汚れてしまうという意見の出た拠点では、こすると消えるタイプのボールペンを使ってもらっています。
それはよいアイデアですね。作業者はその日の作業が終わった段階で日報を書き込むのでしょうか、それとも作業中に用紙を持ち歩いて工程が終了するごとに記入するのでしょうか。
鈴木さんこれも倉庫によって違い、両方のケースがあります。いずれの場合も日報特有の難しさがあり、作業に集中していると時刻を確認するのを忘れるなどして記入ミスが発生するんですね。これについては具体的なワークフローの説明で後述します。
3. 高速でスキャンした日報シートを「DynaEye」でOCR処理しシステムに連携
「OCR日報システム」のワークフローについてうかがいます。作業者が記入した日報はいつ回収してスキャンするのでしょうか。また、作業者はどのくらいの人数になるのでしょう。
辻さん作業者は一日の作業を終えると日報を記入し、帰り際に事務所に提出します。それを翌日の朝、各拠点の事務担当者がシステムに取り込みます。頻度は毎日で、各拠点で午前中のほぼ同じ時間帯に処理を行います。作業者の人数は拠点ごとに異なり、30名から300名と幅があります。
「fi-7160」のスキャン性能に対する評価をお聞かせください。
辻さん読み取るスピードが速いので、人数の多い拠点でもスキャンがすぐに終わります。給紙も安定していますね。紙詰まりなどが起こると私にメールが届く設定にしていますが、現実的にはほぼ発生していません。
スキャン後に「DynaEye」でOCR処理する際、どのような項目を読み取っているか、改めて教えてください。また、OCRの認識精度をどのように評価していますか。
辻さん認識する項目は日付・社員番号・出勤区分・出退勤時間・作業エリア番号・工程番号・作業時間または作業時刻です。手書き文字に対する認識精度は実用上、十分だと思います。英字でエラーが出るときが多少ありますが、作業者が見本通りの文字を書いていないためでもあるので、ソフトウェア単体の評価というわけではありません。
なお、数字の「0(ゼロ)」と英字の「O(オー)」の読み分けが難しいことから、できるだけ英字を使わないフォーマットにして認識精度が上がるよう工夫しています。
文字認識後の確認と修正はどのように行っていますか。
辻さん読み取り後、すぐに事務職員が画面を確認します。認識エラーがあると通知する仕組みになっていますので、通知の出た日報だけを確認し、修正してからデータベースに登録します。次に登録後、整合性の取れないデータがあればそれも修正します。
1回目の修正はOCRエラーへの対応ですね。それに対して2回目の修正はどのような意味を持っているのでしょうか。
辻さん2回目は日報に記載された内容の修正です。たとえば実際には存在しない工程番号が書かれているなど、あらかじめシステムに登録してある内容と整合性が取れない箇所があればシステムが知らせてきます。また、タイムレコーダーに基づく勤怠システムのデータとも自動で照合しますので、本来の出退勤時間と異なる時刻が書かれているときもチェックが入ります。いずれの場合も事務職員が作業のチームリーダーや本人に連絡を取り、記入ミスなのかどうかを確認してから修正します。
鈴木さんそれが前述した、日報ならではの難しさです。記入ミスがないに越したことはありませんが、必ず発生するものですので、内容の確認と修正は欠かせない工程です。一方、その前段階にあるOCRの認識精度は心がけによって向上させることができますから、作業者の方々には記入見本にできるだけ近い書き方で記入していただくよう、注意喚起を続けていくことになります。
データ整備後、「OCR日報システム」からどのような集計が出力されるのでしょうか。
辻さん拠点ごとにさまざまな集計表を出力しています。単日・累計の作業別工数集計、個人別能率、工程別能率、時間帯別作業人数集計、請求金額集計など、拠点の上長や、閲覧を希望するお客様が求める形でシステムがデータを集計します。
集計も辻さんが全拠点分を行っているのでしょうか。
辻さんいえ、各拠点にはそれぞれが必要とするデータを集計できるよう、カスタマイズした「OCR日報システム」が導入されていますので、集計と出力は各拠点の事務担当者が行っています。
スキャン後、日報シートは保管しているのでしょうか。
辻さん現状では約3年分のデータをPC内に保存しており、シートはある程度溜まったら廃棄しています。
4. 入力と集計の所要時間を70%削減、翌日の作業改善にデータを活かせるようになった
「OCR日報システム」が稼働する前は、日報をどのように集計していたのでしょう。
辻さん以前の日報は記入欄付きのメモ用紙のような体裁で、作業者の方々が一日に行った作業内容や時間を書き込んだものを回収し、それを見ながら事務担当者が日報用のExcelに手で入力していました。整合性の確認も当時は目視で行っていました。
システム導入後は相当な効率化が実現していることと思います。もし数字でその度合いを表せるようでしたらお聞かせください。
辻さんおおよそ「作業員約60名に対して一日あたり85分の削減」といったところでしょうか。60名いる拠点で「入力60分、確認60分」を要していたものが「入力0分、確認35分」になったということで、時間が約70%削減されています。
以前は一人につき2分を要していたわけですね。すると、100名いれば3時間20分を要するので午前中いっぱいかかり、300名になると事務職員が複数名で処理しても一日がかりに近かったということでしょうか。
鈴木さんその通りで、多くの拠点では事務職員が一生懸命入力しても集計が出るのは昼過ぎになり、人数の多い拠点では午後の半ばを過ぎてしまうこともしばしばでした。これの何が困るかというと、昨日の作業能率がどうだったかという数字が一刻も早く欲しいのに、集計に午前中いっぱいかかると反省を活かして改善するための時間が午後しかなくなり、数字が午後3時に出てきた場合は残り2時間しかないといったことになってしまうからです。
働き方が変化するのと軌を一にして、この10年ほどの間に私たち物流業界自体も変化を遂げてきました。前述のように、現在は利益を出すためには精緻なデータを取り、「日々決算」の心構えで改善を積み重ねていく必要があります。ところが「OCR日報システム」の導入前は集計に時間がかかっていたため、前日のデータを基にした改善が思うようにできず、非常に歯がゆい思いをしていました。それが今では、多くの拠点で朝のうちに集計が終わり、最も人数の多い拠点でも昼までには数字を見ることができますから、その日の作業を十分に改善できるようになりました。
物流IT推進室では、まさに事業の根幹に関わる開発を手がけておられるのですね。
鈴木さんはい。「OCR日報システム」のほか、最近では現場での工程の進み具合に応じてリアルタイムで作業員の配置を最適化できる「スマートキャスティングボード」というシステムも開発しています。スマートフォンのように直感的に操作できるためPC操作に慣れていない人でもすぐに使いこなすことができ、流動的な現場の状況に対して最も効率のよい人員配置が可能になります。「OCR日報システム」と「スマートキャスティングボード」は、物流サービス事業の両輪ともいえるシステムです。
5. 納品書のQRコードを読み取り、システムで現物の入荷状況と照合してから計上
「OCR日報システム」に加えて、「OCR納品書読取システム」も開発されたとうかがいました。どのような目的と機能を持つシステムでしょうか。
辻さんある拠点でお客様の商品が入荷する際、運用が変更されて現物と納品書が別々に届くようになり、納品書だけではなく実際に商品が届いているかどうかの確認作業が必要になりました。これに対応するため、拠点ではExcelで入荷をチェックすることにしましたが、納品書が最大で一日800枚にも及ぶので入力に1時間半から3時間を取られてしまい、よりよい方法はないだろうかという相談が拠点から物流IT推進室に寄せられました。
そこで納品書を、「OCR日報システム」と同様に「fi-7160」と「DynaEye」で読み取ることにしたのですね。
辻さんそうです。いろいろ経緯はあったのですが、最終的には納品書に印刷されているQRコードを読み取り、お客様からいただいた内示データと照合すればよいことがわかったので、スキャンしてQRコードを読み取るシステムを2022年7月から稼働させています。
「OCR納品書読取システム」の具体的なフローを教えてください。
辻さん拠点の入荷場に届いた納品書をスキャンし、QRコードを読み取ります。システムはそのデータを、WMS(倉庫管理システム)に登録済みの内示データと照合してからWMSに登録します。続いてWMS内で入荷データと納品書データをチェックし、現物と納品書が揃っているのか、揃っていないのかを画面に表示します。担当者はそれを見て現物未着の納品書を抜き取り、揃っているものだけをお客様に入荷計上するという流れです。なお、当社のWMSも物流IT推進室の別の担当者が開発しました。
お話をうかがい、事業の根幹を支えるシステムから問題解決のための仕組みまでを構築する物流IT推進室の開発力と、自ら開発したシステムが十全に機能するよう日報シートの作成も担当する辻さんの姿勢に感銘を受けました。
辻さんシステム開発はどれも私一人ではなく、拠点の方々をはじめとする皆さんとの共同作業ではありますが、人が喜んでくれればうれしいですし、やり甲斐にもなります。技術的にはまだまだ至らないものの、できるだけ皆さんの希望を実現したいと思っています。
本日は詳しくお聞かせくださり、ありがとうございました。
※ QRコードは、株式会社デンソーウェーブの登録商標です。