1. 導入事例
2022.11.9

改善に対する職員の意識を変え「日本一紙の少ない自治体」を目指して
手入力・目視確認が伴う庁内の事務処理業務をAI-OCR利用で60%効率化

かほく市役所の前に立つ荒井さんと鶴見さんの写真

かほく市 総務部 企画振興課 課長補佐 兼 企画調整係長 荒井さん(左)と健康福祉部 健康福祉課 母子保健係主幹 兼 母子保健係長 鶴見さん(右)

かほく市 総務部 企画振興課 課長補佐 兼 企画調整係長 荒井さん(左)と健康福祉部 健康福祉課 母子保健係主幹 兼 母子保健係長 鶴見さん(右)

まだまだ紙帳票で行う業務が残っている自治体は多く、問い合わせのたびに膨大な紙資料の中から情報を探したり、申請書の情報を手入力でデータ化したりする作業が課題となっています。デジタル化による業務改善が必要だと感じていても、従来の業務フローの変更が難しいケースやシステム化するためのコストが高額なことからあきらめている自治体は多いと思います。
石川県かほく市でも同様の問題を抱えていましたが、健康福祉課で乳幼児健診の問診票の入力、任意予防接種の支払依頼に関する業務の改善を行い効率化に成功しました。また、この取り組みがきっかけとなり職員の意識が変わり、「改善が改善を生む」良いサイクルがまわり始めているそうです。今回は、かほく市の企画振興課・健康福祉課を訪ね、業務改善の取り組み、その改善を成功させるために行ったこと、庁内の意識の変化についてお聞きしました。

かほく市 企画振興課・健康福祉課

業種:自治体

かほく市人口:3万5,921人(令和4年8月現在)

課題
乳幼児健診の問診票、任意予防接種の申請書の情報を1件ずつ手入力でデータ化し、入力結果を複数人で目視確認しているため手間と時間がかかっていた。
解決法
PFUのA4高速イメージスキャナー「fi-7180」とAI-OCRソフトウェア「DynaEye」を導入し、入力業務を自動化。
効果
乳幼児健診のデータ入力時間を60%カット。任意予防接種の支払依頼の作業時間を46%カット。また、改善によって時間と心の余裕が生まれ、次のステップの改善を考えるなど職員の意識に変化が生まれた。

1. 業務改善には、まず紙面情報のデータ化が必要

かほく市 総務部 企画振興課の荒井さんにうかがいます。AI-OCRを用いた業務改善を行うことになった経緯をお聞かせください

荒井さんかほく市では以前からDX推進を検討していて、実はAI-OCRよりも前にRPAの導入を検討していました。RPAは、人がパソコンで行っている作業を人に代わって行う仕組みなので、行政改革を進める際に業務効率化の面で大きな効果が期待できますし、他の自治体でも導入し始めていたこともあり、かほく市でも取り組み始めました。

しかし、いざ取り組んでみると、RPAが取り扱えるのはデジタル化された情報だけなので、紙帳票を使った業務が多いかほく市では適用できる業務が限られていました。
それで、まずは「紙の情報をデータ化することが必要だ」と気が付き、AI-OCRでの業務改善に取り組むことにしました。

最初に取り組んだのは、乳幼児健診の問診票の情報をかほく市の管理台帳に入力する業務だとうかがいましたが、どのように選んだのですか。

荒井さん全庁を対象に、データ入力作業の改善が必要な業務を募集しました。17課から43業務が集まり、この中から手書き帳票のデータ入力が大きな負荷になっていて、かつ業務効率化の効果が得られそうな健康福祉課の乳幼児健診の業務を選定しました。

取り組みのきっかけについて話す荒井さんの写真

AI-OCRでの業務改善に取り組むきっかけについて話す荒井さん。

健康福祉課の業務風景の写真

AI-OCRの取り組み対象となった乳幼児健診業務を行う健康福祉課の様子。

健康福祉部 健康福祉課の鶴見さんにおうかがいします。乳幼児健診の問診票のデータ入力は、これまでどのように行っていたのでしょうか。

鶴見さん 紙の問診票を見ながら必要な項目を1つずつ管理台帳(Excel)に手入力していました。入力結果の確認も紙の文字と画面の文字を1項目ずつ見比べながら行っていましたね。
健康福祉課の職員は、現場で乳幼児健診などの対応を行っているので、紙の問診票の入力作業は、日中の業務が終わってから行ったり、嘱託職員(会計年度任用職員)に依頼したりしていました。問診票の項目は約250あり、月に約80人分の入力を40時間ほどかけて対応していました。

問診票のデータ入力について話す鶴見さんの写真

乳幼児健診の問診票のデータ入力について話す鶴見さん。

紙と画面を見比べながら確認している様子

改善前は、手入力した項目に誤りがないか、紙と画面を見比べながら1項目ずつ確認していました。

80人分の問診票をすべて手入力するのは大変ですね。乳幼児健診のデータ入力業務を改善すると聞いたときはどのようなお気持ちでしたか。業務のやり方を変えることに不安などはなかったですか。

鶴見さん 確かに大変でしたが、日々の忙しさの中、やり方を改善することに向き合う時間が取れず、「大変だけど必要な作業だ」と受け止めてこなしているのが現状でした。ただ、そう思いながらも、「単純作業が妨げになって、住民サービス向上の業務に集中できない」という現場感覚はずっと持っていたんです。

なので、AI-OCRによる自動化で時間短縮が可能ということを聞いて、現場では新しい業務を行う不安より、導入後の期待のほうが大きかったですね。

2. 高速スキャナーとAI-OCRによる入力業務の自動化で負担感が劇的に変化

fiシリーズのA4高速スキャナー「fi-7180」とAI-OCRソフトウェア「DynaEye」を使用した、乳幼児健診の問診票の内容をデータ入力する業務の流れについて教えてください。

鶴見さん 乳幼児健診で集まった問診票は「fi-7180」でスキャンし、スキャンしたデータを「DynaEye」に取り込んで文字認識します。モニターに認識結果と問診票の画像が並んで表示されるので、照らし合わせながら誤りがないかを確認します。視線の移動が少なく比較しやすいので負担が少なく、楽に確認できます。
確認後はCSVファイルで出力し、認識結果のデータ行をコピーしてかほく市の管理台帳(Excel)に貼り付けます。台帳に集められたデータは国や県の報告に使用しています。
この改善で、月に40時間かけていた作業を16時間に短縮することができました

荒井さん 現在、AI-OCRを利用して効率化しているのはCSVデータ出力までなのですが、今後はその先のこのコピーや貼付け作業の自動化、RPA連携を検討していきたいと考えています。

集まった問診票をfi-7180にセットしている様子

乳幼児健診で集まった問診票は「fi-7180」にセットしてスキャンします。

モニターに認識結果と問診票の画像が並んで表示されている様子

モニターに問診票の画像(右)と認識結果(左)が横並びで表示されます。視線の移動が少なく比較しやすいため確認時の負担が減ります。

カルテの電子化にも取り組んでいるとお聞きしましたが、これはどのような取り組みなのでしょうか。

鶴見さん 各健診の問診票を一人ずつファイリングし、紙のカルテとしてキャビネットに保管しているのですが、これを電子化しました。
問診票などの書類を子ども単位でまとめ、氏名や児童コードを記載した「セパレート用紙」と呼ばれる紙を先頭にのせてスキャンします。すると、fiシリーズの自動仕分け機能によって、セパレート用紙の文字が認識され、氏名などの情報を付与した個人が特定できるファイル名のPDFが作成されます。これが電子カルテです。
以前は、関係機関からの問い合わせのたびにキャビネットに移動して書類を探していたのですが、電子カルテにしてからは座席で電話をしたまま必要な情報を検索して素早く回答できます。

紙のカルテが保管されているキャビネット内の写真

紙のカルテが保管されているキャビネット。

セパレート用紙をのせた書類の束

子ども単位でまとめ、先頭にセパレート用紙をのせた書類。fiシリーズは用紙の定位置に印字された文字やバーコード情報をファイル名・フォルダ名に設定できるため、データ整理の手間を軽減できます。

もう1つの任意予防接種の支払依頼業務ですが、この業務を改善するきっかけは何だったのでしょうか。

荒井さん 乳幼児健診の取り組み中に「任意予防接種の支払依頼業務にもAI-OCRを導入すれば効率化できるのでは」という提案が職員から持ち上ったのです。それで、引き続き取り組むことにしました。

鶴見さん この任意予防接種の支払依頼業務の改善は、職員の負担感が劇的に変わったんですよ!

現場の負担感が劇的に変わるのはすごいですね。どのように変わったのですか。

鶴見さん 任意予防接種の償還払いでは、申請書に記載されている氏名、金額、口座番号などの情報を手入力して支払い依頼していました。入力する項目は8項目ですが、インフルエンザが流行する12月~4月は月に300~400人分もの支払いを行います。

この時期は、支払い日に間に合わせるため、通常の担当者1名では足りず、専任の入力者を臨時で準備し、2名体制で対応していました。また、ミスが許されない情報なので、入力確認も職員が2名がかりで行っていました。
この作業が精神的にとても負担で、夏ごろから不安を感じていた職員がいるくらいです。

これを乳幼児健診と同じようにAI-OCRを使って改善することで手入力が不要になり、入力作業が1名、確認作業も入力者による自己確認と職員1人によるチェックという体制になり、負担がかなり軽減されました。

以前は約150時間かけて行っていましたが、去年の冬は約80時間に短縮でき、精神的にも体力的にもとても楽になり助かりました。

1シーズン分の申請書の束の写真

インフルエンザが流行する12月~4月は月に300~400人分もの支払いを行います。写真は1シーズン分の申請書の束。

現場感覚が変わったと話す鶴見さんの写真。

AI-OCRを導入し、去年の冬は精神的にも体力的にも楽になったと話す鶴見さん。

3. 心に余裕ができ、次の改善を生むように

AI-OCRの導入で効率化の成果を出されていますが、何か工夫したことはありますか。

鶴見さん 問診票の様式をAI-OCRが認識しやすいように調整し、認識精度が向上するように工夫しました。たとえば、次のような点です。

  • 選択式の設問は、すべてマークシートにしています。
  • 氏名とフリガナを2段に分けています。
  • 数字が等間隔で記載されるように、はしご線を付けています。
  • 入力されている情報の対象がわかるように、チェック欄を追加しています。
乳幼児健診の問診票の工夫点
任意予防接種の申請書の工夫点

様式をAI-OCRが認識しやすいように、選択式の設問をマークシートにしたり、氏名とフリガナを2段に分けたりして工夫することで認識精度が向上します。

いろいろ工夫されているようですが、fi-7180やDynaEyeを使ってみていかがでしたか。

鶴見さん fi-7180は、折り目が付いている紙でも紙詰まりしませんし、何より読み取りのスピードに驚きました。また、省スペースなのでデスクにおいて作業でき、スキャンするために席を立つ必要がなくて便利です。DynaEyeは、最初は様式調整などが必要なのですが、いったん整ってしまうと自動で入力されるので嬉しいですね。

荒井さん DynaEyeは、オンプレミス型でインターネットを経由せずに利用できるので、情報セキュリティが担保できるところも評価のポイントです。
また、世の中のAI-OCR製品は、認識する項目の数によって課金されるものが多いようですが、DynaEyeは買い切り(パッケージソフト)なので、枚数を気にすることなく類似した業務に展開できるところも庁内に展開しやすくて良いです。

さきほど、職員から任意予防接種の改善について提案があったとうかがいましたが、その他にも変化したことはありますか。

鶴見さん 決められたとおりの手順で行うだけではなく、こうすればもっと良くなるのでは?と考えながら業務を行うようになりました。たとえば、管理台帳の情報を別の書類に転記する際に、作業しやすいように並び順を変更するなど、些細なことなのですが、これまではなかったことです。
業務改善で時間だけでなく心にも余裕が生まれたので、工夫しようとか改善しようという気持ちが起きるようになったのだと思います。

改善の成果は庁内で認識されているのですか。

荒井さん 取り組み成果は、全職員を対象とした「行政事務デジタル化勉強会」で共有しています。業務改善の効果が職員に浸透するようになり、健康福祉課の職員が他の職員からAI-OCRについて質問を受けたり、使った感想や効果を聞かれたりするそうです。

4.「共に」「職員の意識の変化」が業務改善のポイント

健康福祉課の業務改善をきっかけに職員の意識が変化してきていますが、導入検討を始めた頃から前向きな雰囲気はあったのでしょうか。

荒井さん 当初は、「これをこうしてもらわないとだめ」「これができないのであれば導入しても意味がない」というように、「100%できないと無理」という雰囲気がありました。また、AI-OCRを導入できるのは大都市圏で、かほく市で予算化するのは無理、とあきらめているところもあったと思います。

そのような雰囲気の中、どのように推進されたのですか。

荒井さん 今、導入しなければ世の中から遅れてしまう。導入させてほしい、これを機会に一緒にやっていこう!と、企画振興課が先導する形で始めました。現場に動いてもらわなければ改善は進まないので、企画振興課が伴走者となり一緒に走るのでやりましょう!とサポートしながら推進しました。

現在の庁内の雰囲気はどうですか。

荒井さん 現在は、デジタル化に向けたマインドが醸成してきたと感じています。健康福祉課の職員は特にだと思いますが、100%自動化できなくても、たとえば6割でも効率化できれば、業務が楽になるということを実感していると思います。
また、これまでは、どちらかというと自分たちの業務のやり方を変えずに、業務に合うツールを使って効率化しようと考えていましたが、今は、ツールに合わせて自分たちの業務を見直すことで、無駄な作業が見え、より効果がでるのではないかという考えに変わってきています。

業務改善に前向きな職員の方も増えてきたのですね。

荒井さん はい。庁内の勉強会で効果を共有したこともあり、興味を持つ職員が増えています。最近では、「この業務はAI-OCRで効率化できるか」という問い合わせが、私のところに多くくるようになりました。
この変化はとても大きな変化だと思っています。今後も改善に対する意識が庁内に広がり「行政事務の効率化」が進むように推進していきたいと思います。
そして、その先の基幹系システムの標準化にも、この改善の考え方で対応できるのではないかと感じています。

5.「日本一紙の少ない自治体」を目指して

市民サービス向上を目指した取り組みも始めているとうかがいましたが、お聞かせいただけますか。

荒井さん 業務効率化だけでなく市民サービスの向上も目指し、「顔認証付きカードリーダー」の実証実験を期間限定で実施しました。
「住民異動届」や「住民票・戸籍・印鑑登録証明書交付請求書」の申請時に、運転免許証やマイナンバーカードを顔認証付きカードリーダーに通すことで、名前や住所があらかじめ申請書に記載されます。これにより、市民のみなさまに何度も記入していただいていた「氏名」や「住所」の入力が不要になります。

顔認証付きカードリーダーの写真

顔認証付きカードリーダーに運転免許証などを通すと、氏名などが入力された申請書が作成されます。

今後の取り組みについて話す荒井さん

顔認証付きカードリーダーを利用すると、これまで市民に何度も記入していただいていた住所などの情報の入力が不要になると話す荒井さん。

最後に「日本一紙の少ない自治体」を目指して考えていることがあれば教えてください。

荒井さん A4高速イメージスキャナー「fi-7180」とAI-OCRソフトウェア「DynaEye」を使った業務効率化を他業務にも横展開していこうと考えており、適用できる業務についてのアンケートも実施済みです。
まだまだ市民のみなさまに来庁していただいたり、紙を使った申請はなくなったりしませんが、将来的にはインターネットを利用したオンライン申請ができることを視野にいれています。

これからも庁内全体で業務改善を進め、日本一紙の少ない自治体を目指して進化していきたいと考えています。

本日はお忙しい中、参考になるお話しをお聞かせいただきありがとうございました。

※ Excelは、米国 Microsoft Corporation の米国およびその他の国における登録商標または商標です。

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