2024.11.25 |
いるま野農業協同組合
手入力をAI-OCRに切り換えて「38人→4人」の省人化を実現、人件費を大幅に圧縮 購買品申込書を「fiシリーズ」でスキャンし「DynaEye」で読み取る運用により少人数への業務集約に成功
埼玉県南西部を広く管轄するJAいるま野(いるま野農業協同組合)では、マンパワーに頼りがちな経済事業のあり方を改革するために、これまで各支店で手入力していた購買の受注処理業務を本店に集約し、購買品の申込書を「RICOH fi Series」(以下、fiシリーズ)でスキャンしてAI-OCRソフトウェア「DynaEye」で読み取る運用を開始しました。 これにより現在では38人から4人への大幅な省人化が実現し、経済事業安定化の大きな一歩となっています。 川越市の本店を訪ね、「DynaEye」活用のコツを含めて具体的なフローをうかがいました。
いるま野農業協同組合
業種:流通
事業区域:川越市、所沢市、飯能市ほか10市3町
正組合員数:約3万人
主な農産物:米、サトイモ、茶
- 課題
- 組合員の生活を支える経済事業がマンパワーに頼っているため、デジタル技術を活用して早急に解決する必要があった。
- 解決法
- 38の支店で手入力していた紙による購買品受注の処理を本店の集中受注センターに集約、「fiシリーズ」でスキャンした申込書を「DynaEye」で読み取る運用を4人のチームでスタート。
- 効果
- 受注処理のみに留まらず、支店が行っていた架電による受注業務も集中受注センターに移行。大幅な省人化が実現し、支店では他の業務に時間を割けるようになった。
1. 集中受注センターを開設して紙の申込書を「DynaEye 11」で読み取る運用を開始。38人から4人への省人化に成功
A4高速スキャナー「fi-8170」とAI-OCRソフトウェア「DynaEye 11」を活用した購買業務の効率化についてお聞かせいただくにあたり、JAいるま野の概況と現在進行中の事業改革のあらましなどを、いるま野農業協同組合 経済事業改革室 課長補佐の浅見純一さんにうかがいます。はじめにJAいるま野の管轄区域や規模について教えてください。
浅見さん
JAいるま野は川越市、所沢市、飯能市、狭山市、入間市など埼玉県南西部の10市3町を事業区域とする農協です。当区域は埼玉県の面積の約18パーセントを占めており、土壌が肥沃なため米作では埼玉県のブランド米「彩のきずな」の重要な産地となっています。そのほか狭山茶として知られる茶葉、サトイモやホウレンソウなどの栽培が盛んで、中でもサトイモの生産量は全国でも有数です。
人的な規模では、正組合員が約3万人おられます。これには専業・兼業の農家だけでなく、貯金や共済で農協を利用してくださっている方々も含まれています。
JAいるま野が進めている事業改革の狙いや方向性についてお聞かせください。
浅見さん 事業改革はJAいるま野の中長期事業戦略プラン「IRUMANO Vision2033」に基づいて推進しているもので、我々が携わっている経済事業では、購買や販売などの業務効率化を最大の目的としています。
従来、購買や販売では一つの商品をお客様にお届けするまでに非常に多くの人手を必要としており、人件費に常時圧迫されていることが問題になっていました。この事業構造を変えてしっかり利益が出るようにしなければ、組合員のための経済事業が成り立たなくなります。また、人口減を根本的な原因とする人材不足という現実もあり、マンパワーに頼った事業を続けることがそもそも不可能になりつつあります。
これらの問題を一気に解決する方策として、JAいるま野ではDXによる省人化を推進しています。購買事業においては本店に「集中受注センター」を開設し、従来38か所の支店で行っていた購買品の受注処理を1か所に集約しました。「fi-8170」と「DynaEye 11」の導入先は、この集中受注センターです。
購買はどのような事業なのでしょう。
浅見さん 農協が仕入れた物資を組合員に供給する事業で、全国の農協が昔から展開しているものです。物資は大きく分けて2系統あり、一つが肥料など生産者向けの生産資材、もう一つが全組合員向けの生活物資です。これらの物資は紙の申込書によって組合員の方々から受注します。
現在、集中受注センターで「fi-8170」と「DynaEye 11」を活用しているのは生活物資の受注処理です。手書きで記入された申込書を「fi-8170」でスキャンし、「DynaEye 11」によるOCR処理で抽出したテキストデータを基幹システムに連携させる運用を2024年4月から開始しています。
集中受注センターの開設によって、どのくらいの省人化が実現しましたか。
浅見さん 本店では取りまとめ役1人はそのままに4人を増員し、38か所の支店に1人ずついた購買担当を0人にしました。したがって増員した4人に支店38人分の仕事を集約した計算になります。
ただし支店での受注処理は申込書を見ながらの手入力でしたから、そのままでは4人への集約は不可能です。AI-OCRによる申込書の読み取りというデジタル技術を活用したからこそ実現した省人化といえます。
生活物資にはどのような商品があるのでしょう。
浅見さん 運用開始後に扱った商品はメロン、小玉スイカ、大玉スイカです。このあとはリンゴや柑橘類、お正月用の伸し餅などが控えています(※)。
※取材は2024年9月
それらの農産物や加工品は、管内の組合員が生産したものを同じ管内の組合員に供給しているのでしょうか。
浅見さん そのパターンも存在し、たとえば茶農家ではない組合員に狭山茶を販売することなどもありますが、農協が全国から集めた旬のものを組合員の皆様にお届けするのが購買の骨子ですので、今年のメロンは茨城県のJAから、スイカは鳥取県や山形県のJAから、それぞれ仕入れています。
インターネットでの申し込みではなく、紙の申込書を使うのはなぜでしょうか。
浅見さん
なにぶん農協は昔からの紙文化の組織体ですから、デジタルベースの仕組み自体、必要と認識されてこなかったという事情があります。このたびの事業改革で一部の物資をインターネットで注文できるようにしましたが、まだまだ端緒に過ぎません。DXによって省人化・効率化を図るべき主たる対象業務は、現段階ではあくまでも紙の申込書の処理ということになります。
2. 「帳票ID」の活用により、一度作った書式定義を新しい申込書にも流用できる
ここからはJAいるま野 営農経済部 購買課の鈴木晴菜さん、小西香子さん、齋藤信子さんにも加わっていただき、申込書データ化のフローをお聞かせいただきます。鈴木さん、小西さん、齋藤さんは集中受注センターの構成メンバーでいらっしゃるのですね。
浅見さん そうです。前述した課員5人のうちの3人です。
集中受注センター開設後に扱った購買品の中で、注文数が最も多かったのはどの商品で、何枚の申込書が集まったのでしょう。
齋藤さん 注文数が最も多いのはメロンです。今年のメロン申込書は5月の締切時点で3,000枚強が集まりました。
鈴木さん 購買のメロンは品質が安定しているためかファンが多く、毎年買ってくださる方が大勢いらっしゃいます。申込書のOCR処理をメロンから始めたのは、年度初めの商品であることに加えて、枚数が多くデジタル化の効果を測りやすいからでもあります。
申込書はどなたがお作りになっているのでしょうか。
鈴木さん 以前から自分たちでレイアウトし、出来上がったら複合機で紙に印刷しています。枚数が3万枚近くに及ぶため、主要拠点7か所で手分けして印刷します。デザインデータはカラーですが、このときは色上質紙にモノクロ印刷です。
「DynaEye 11」で読み取るのは記入箇所のすべてでしょうか。
鈴木さん 基本的には黒い太線で囲ってある項目を読み取ります。申込日と、いちばん下にある「JA記入欄」「職員コード」の3か所は太線ではありませんが、そこも読み取ってデータ化するよう書式定義しています。
浅見さん 「DynaEye 11」は操作がシンプルで、書式定義の方法もすぐに覚えられました。OCRソフトウェアの扱いに手間取ると省人化の効果も半減しますが、「DynaEye 11」は運用までが非常にスムーズでした。
申込書をレイアウトする際、記入ミスを防ぐための工夫をしていますか。
鈴木さん はい、たとえば申込日欄の「年」には「令和」ではなく西暦で書いていただきたいので、一目でわかるよう頭に「20」を印字してあります。また、こうした書式では日付に枠線を付けないことが多いのですが、それだと大きくずれた場所に書かれる場合もあるので、枠線で囲むようにしました。
そのほか、郵便番号と電話番号をお書きいただく欄には、書き方の揺れを防ぐためにそれぞれハイフンをあらかじめ印字しています。こうしたことは「fiシリーズ」と「DynaEye」を私たちに紹介してくれたリコージャパン株式会社の営業担当者、ならびにPFUの営業担当者に教えてもらいながら手を加えていきました。
申込書部分に印刷されている黒い四角形は「DynaEye」によるOCR処理をスムーズにするためのポイントの一つ、「基準マーク」ですね。
鈴木さん そうです。これを配置することで、四角形を四隅とする長方形を「DynaEye
11」が読み取るエリアとして指定できます。申込書部分をカットするときのラインは人によって微妙にずれるので、場合によってはサイズ違いの紙として認識されて読み取りに影響することがありますが、基準マークがあればカットのラインが多少ずれていても問題が生じません。これもPFUにアドバイスをもらって付けたものです。
「DynaEye 11」をうまく使いこなしておられますね。
鈴木さん 検討段階でPFUのアドバイスを参考にしながら、本番の運用にそのまま使える書式定義を作成できたので、それをベースにして細かい調整や工夫を重ねています。きめ細かい対応には本当に助けられました。
浅見さん さらに助かっているのは「DynaEye
11」の「帳票ID」による識別機能です。これまでの3例でいうとメロンは2品目、小玉スイカは1品目で送り先指定あり、大玉スイカはさらに品目が多く締切が複数回ありと、記入部分の項目数や枠の位置・サイズなどのレイアウトが異なります。これらを書式定義後に帳票IDを付けて「DynaEye
11」に登録しておくと、新商品の申込書を作るときにレイアウトが登録済みのものと同じであれば、その帳票IDを申込書に印字しておくだけで書式定義が自動的に流用され、「DynaEye 11」が読み取ってくれます。
帳票IDによる識別機能は、既存の書式定義を簡単に使い回せるということで、ご好評をいただいています。
浅見さん 帳票IDを活用すると新たに書式定義をする必要がなくなり、効率よく新商品の申込書を作成できるので、間違いなくユーザーにとって非常に便利な機能です。
鈴木さん 今作っている伸し餅の申込書はまた別のレイアウトになるので、完成したらそれも帳票IDを付けて登録し、別の商品のときに活用することになります。
3. 「DynaEye 11」の高精度な認識結果を「マルチステーション」を活用して円滑に確認
申込書データ化フローの続きをうかがいます。印刷した申込書は組合員宛てに郵送するのでしょうか。
浅見さん 申込書単体の郵送ではなく、月に1回配布している広報誌に挟んでお届けしています。
組合員はそれを見て、欲しいものがあれば申込書に記入するのですね。記入済みの申込書は近くの支店に提出するのでしょうか。
浅見さん 支店の窓口でもお受けしています。支店にご提出いただいた申込書は本支店間の定期便で集中受注センターに送られてきます。ただ、実は支店で受け取る申込書は以前から全体の3割程度で、残りの7割はこちらからの架電でお受けするご注文です。この架電業務も今回、各支店から集中受注センターに移行させました。
このチームの皆さんで架電も担当されているのでしょうか。
浅見さん そうです。38人から4人になりましたが、受注処理にAI-OCRを活用すれば架電までをカバーするだけの十分な余力が生まれます。受注処理と架電業務の集約は同時に実現させなければ効果がないため、「DynaEye 11」の導入がマストでした。
架電業務もメロンの受注期間にスタートしたのでしょうか。
小西さん 架電はその次の小玉スイカからです。これまで各支店の購買担当が支店管内のお客様に電話していたところを、今年からは4人で全域を分担して「今年もスイカの時期になりました。いかがですか」と声をかけました。
齋藤さん 今年は申込書がご自宅に届いてから少し経った頃に架電したので、お手元の申込書をご覧いただきながら電話を受けていただくことができました。そのためお客様のご検討も早く、架電業務がスムーズに進みました。
そのお電話で即注文というケースもあるのでしょうか。
鈴木さん むしろそれがほとんどです。お電話で承ったら、コピー紙に印刷した申込書に私たち自身が記入します。このときあとからトレースできるよう、「職員コード」の欄に架電担当者が自分のコード番号を記入します。
申込の締切を迎えたら、申込書のスキャンとOCR処理に進むのですね。どのくらいの頻度でスキャンしていますか。
鈴木さん 申込締切日の翌日にまとめて済ませています。たとえば大玉スイカの場合、締切が6月14日、6月28日、7月5日と3段階あるので、6月14日にいったん締めてスキャン、次に6月28日にいったん締めてスキャンというペースです。
「fi-8170」を2台導入されています。スキャンは2台で行うのでしょうか。
鈴木さん これまでのところ、最多のメロンでも1台で済ませられています。3,000枚の申込書を地域ごとに分け、セットできるだけの枚数の束を次々にスキャンしていく形です。スキャンが速いので、読み取り自体にはそれほど時間はかかりません。スキャンが終わると「DynaEye 11」が即座に束ごとのOCR処理を開始します。
「DynaEye 11」でOCR処理した結果の確認と修正についてうかがいます。この作業のために、複数のPCで同時に確認と修正ができる「DynaEye 11 Entry マルチステーション」(以下、マルチステーション)を3セット導入されていますね。具体的にはどのように活用していますか。
鈴木さん
親機PCで行ったスキャンとOCR処理の結果を、親機だけでなく3台の子機PCにも共有できるので、4人のチームで一斉に確認・修正作業をしています。誰かがある地域の確認を終えたら「次はここを見ます」と声をかけるなど、一つの島でコミュニケーションを取りながら作業を進めます。どこが完了していてどこが未着手なのか、全員が同じ画面を見てリアルタイムでわかるので、作業がとてもスムーズです。
「DynaEye 11」の認識精度に対する評価をお聞かせください。
小西さん ある程度は修正が必要なものと思っていましたが、運用を始めてみるとかなり正確に読み取ってくれ、「意外と直さなくていいんだ」と認識を新たにしました。
齋藤さん たとえば振り仮名の欄が漢字、氏名欄がカタカナといった記入ミスの場合は正しく認識できないので直しますが、確認だけで済むもののほうがずっと多いですね。
確認終了後はテキストデータをCSVファイルで出力して基幹システムに連携させるのでしょうか。
浅見さん
埼玉県域の農協で使われている基幹システムではOCRシステムから出力されるCSVファイルを直接取り込めないため、いったん特定のフォルダーに送り、ファイル変換を行ってから基幹システムに取り込んでいます。変換ソフトは我々が独自に作りました。この連携をよりスムーズにすることがシステム側の今後の課題です。
スキャン後の申込書は保存しているのでしょうか。また、紙の申込書を見返すことはありますか。
小西さん スキャンしてしまえば画面上でイメージデータを見られますから、紙を見返すことは現実的にはありませんが、規定により7年間保存しています。
4. 紙詰まりと原稿破損のない「fi-8170」でスピーディかつ安定的に申込書をデータ化
先ほど「DynaEye 11」に対する評価をうかがいました。一方の「fi-8170」についてはどのように評価されていますか。
鈴木さん 最初にイメージデータを見たとき、きれいだなあと思いました。
齋藤さん スキャンのスピードが速いのもよいですね。100枚程度なら文字通り、あっという間です。原稿の破損がほぼ起こらない点もすごくよいと思います。
申込書を切り離したときの切り口が給紙に影響することはありますか。
齋藤さん 支店にご提出いただいた申込書には、定規を当ててピッと切ったような粗めの切り口が多く見られますが、紙詰まりを起こすことはほとんどありません。
小西さん 切り口からビリッと裂け目が入っていたときに給紙が止まったことはありますが、そこだけ修正したらきれいにスキャンできました。ですから紙詰まりの心配はせずにスキャンしています。
鈴木さん 原稿の重送もないですね。最初に念のため原稿の枚数をそれぞれが数えてからスキャンしてみたところ、取り込んだイメージデータの数と枚数がぴったり合致していました。
38人から4人への省人化によって、これまで支店で受注処理をしていた購買担当の方は別の業務に時間を割けるようになったのでしょうか。
鈴木さん そうですね、現在は信用や共済の仕事をしています。このほか主要7拠点でも、各支店で入力したデータを整理する事務作業が発生していましたが、今年からはそれもなくなりました。
「fiシリーズ」と「DynaEye 11」はどのような経緯で導入に至ったのでしょうか。
浅見さん
もともと農協では他社のAI-OCRをテストしており、購買課でも紹介を受けたのですが、認識精度がもうひとつだったので導入には至りませんでした。ほかによいAI-OCRがないものかと悩んでいたところに、リコージャパン株式会社の営業担当者がPFUの「fiシリーズ」と「DynaEye」を紹介してくれ、PFUによるデモの機会を設けてくれました。そのときにスキャナーもAI-OCRも素晴らしいと思い、導入がほぼ決定しました。その後、半年ほどの検討期間を設けて打ち合わせと試用を重ね、導入決定後に即、運用を開始して現在に至っています。
「fi-8170」の設定や「DynaEye 11」のインストールはスムーズに進みましたか。
浅見さん 私だけだとわからない部分があったので、電算部門にも手伝ってもらいました。ただ、一般的なITの知識を持った人にとってはそれほど難しい作業ではないのだろうとは思います。
オンライン個別相談会も利用されたとうかがっています。
浅見さん 書式定義など操作方法のレクチャーを受けました。非常に役立ったので、もう一度利用したいくらいです。
終わりに今回の「fi-8170」「DynaEye 11」導入について総評をお願いします。
浅見さん
冒頭でお話しした通り、経済事業がマンパワーに頼っている現状を打開したいと多くの農協が考えていますが、デジタル技術を活用するにしても、大きなコストを割くのは難しいという事情もあります。その点で「fiシリーズ」や「DynaEye」のような、汎用性が高くユーザーフレンドリーな製品は問題解決の突破口になり得ます。お話ししてきた通り、JAいるま野では「fi-8170」と「DynaEye
11」を活用したDXにより、ほぼ狙い通りの省人化を果たすことができました。今後は「DynaEye 11」の多彩な機能を使いこなせるようにして、生活物資以外の商品にも活用の場を広げていきたいと考えています。
「fiシリーズ」と「DynaEye」がJAいるま野の省人化・業務効率化の一助となれて幸いです。本日は詳しくお聞かせくださり、ありがとうございました。