25年分の紙が「生きたデータ」になる日。病理医・峰宗太郎さんのScanSnap×AI活用術

研究者・病理医として、そして発信者やコンサルタントなどとしても多忙な日々を送る峰宗太郎さん。過去25年以上にわたって膨大な資料や書籍、手書きのノートなどを記録・収集・蓄積してきた生粋の「記録魔」でもあります。
そんな峰先生は、2004年頃からScanSnapのヘビーユーザーとしてあらゆる紙情報をデジタル化してきました。かつては「紙を捨てるため」のデジタル化であり、スキャンしたデータの大部分は「二度と読まない死蔵データ」だと思っていたそうです。
しかし、生成AI(AIエージェント)の登場により、その状況は一変しました。
今回は、峰先生がどのようにScanSnapとAIを組み合わせ、25年分の紙資産(紙に記録された情報資産)を「生きたデータ」へと変えているのか、その驚きの活用術と、根底にある「コピーを恐れない」という新しい情報整理の哲学について伺いました。
峰先生は研究・医療やコンサルティングという機密性の高い情報を扱う職業柄、仕事に関わる機密情報や個人情報は一切ネット上のAIにはアップロードしていません。ローカルに構築したAI環境でもデータの扱いには注意をしているそうです。
AIに読み込ませているのは、あくまで「私的に保有する紙資料をScanSnapでデジタル化したデータ」や「公開しても問題のない情報」のみです。
このセキュリティと倫理観の線引きは、私たちがAIを活用する上でも非常に重要な視点となります。

峰先生のデスク環境。ScanSnap iX2500とPCが並び、ここから日々膨大な紙がデジタル化されている。
目次
25年分の年賀状を「現役の住所録」に変える
峰先生は、25年間にわたって毎日欠かさず電子日記をつけているほどの記録魔です。同時に、紙のカレンダーや手帳、いただいた手紙、年賀状などの交信記録もすべてScanSnapでスキャンして保存してきました。
峰先生:「年賀状も長年にわたって数多く取り込んでデータ化してきたのですが、AIに『過去に誰がいつ年賀状をくれて、どこへ引っ越したかを全部まとめておいて』と頼んだら、簡単にExcelシートにまとめてくれました。これは実によかったですね」
かつては、PDFファイルを開いて1ページずつ確認するのは非常に面倒で、実質的に取り込んだデータは「死蔵」されていました。しかし、AIの強力なOCR(光学文字認識)機能と情報抽出能力により、単なる画像の束だった年賀状が、すぐに「検索・活用可能な住所録データベース」へと生まれ変わったのです。

峰先生が使用しているAIエージェントのひとつ「Manus」の画面。「取り込み資料の整理」などのプロジェクトが並ぶ。
手書きの実験ノートを「検索可能な知のデータベース」へ
さらに驚くべきは、手書きのノートの処理です。
峰先生:「機密性が低い一般的な手書きノートなどを取り込むことがあるのですが、『このノート全部文字起こししといて』と投げると、ワーッと文字を起こしてくれて、さらに『手書きでここにこういうメモが書き込まれています』とか『ここに黄色いマーカーが引かれています』といったことまでちゃんと書いてくれるんです。フォーマットもWordやExcel、PowerPointではきだせる。これはとっても役に立っていますね」
単に文字をテキスト化するだけでなく、メモが書き込まれた「文脈」や、マーカーが引かれた「気配」までもAIが読み取ってくれる。これにより、過去の自分の思考プロセスそのものが、検索可能な知のデータベースとして蘇ることになります。
コピーを恐れるな。AI時代の「やり直せる」情報整理術
これらの活用を支えているのが、峰先生の「コピーを恐れない」というデジタルならではの哲学です。
峰先生:「アナログでは、コピーをたくさん作るのって、基本的に難しいですから。いろんな角度から整理し直したり、ファイリングし直したりするのは、実質無理だったんですよね。場所で固定されちゃうから。でも、デジタルならそれができる。しかもAIを使えば、元のデータを毀損する心配がありません。新しく生成してくれるんです」
例えば、「とりあえずフォルダの中のファイルを全部リネームしたものをコピーして作って」とAIに指示を出すことも簡単です。
峰先生:「『先頭は8桁の数字にしてください。それからファイルを読み込んで、このファイルに一番ふさわしいと思う題名をつけてください。そして最後に、取り込んだ日付を書いてください』と指示して、一気にフォルダの中のファイルを全部リネームさせたことがあって、見事に目的通りになっていました」
失敗したら、元のPDFデータからもう一度やり直せばいいだけ。「試行回数に対するコストがほぼゼロになった」ことこそが、AI時代の最大のメリットだと峰先生は語ります。
AIは「壁打ち相手」ではなく「下ごしらえをこなす相棒」
AIの使い方として「壁打ち(アイデア出しの議論)」を推奨する声も多いですが、峰先生のアプローチは異なります。
峰先生:「僕はAIと壁打ちはほぼしないですね。本当にタスクだけです。朝起きて『さあ今日作業しよう』っていうときには、料理でいうと下ごしらえが全部終わっている状態にしておく。あとこれを肉じゃがにするか、カレーにするかみたいなところ(最終的な決断や創造的な部分)に自分の頭を使える状況にしたいんです」
ちょっと抜けているところもあるけれど、手間のかかる前処理を黙々とこなしてくれる相棒のようにAIを扱う。ScanSnapが紙をデジタルデータに変換する入り口となり、AIがそのデータを「調理可能な状態」にまで下ごしらえしてくれる。
「失敗してもゼロからやり直せる」―これは単なる気持ちの問題ではありません。峰先生が強調するのは、試行回数に対する時間的・心理的な負担が大きく減ったという事実です。
AIの利用料こそかかりますが、時間的・精神的なコストは限りなく小さくなった。だからこそ、「とりあえずやってみる」が成立する。
峰先生の環境では、25年分の紙資産は捨てるためのものではなく、AIという優秀な相棒によっていつでも引き出せる「生きたデータ」へと進化していました。皆さんの家で眠っている紙の束も、ScanSnapとAIの組み合わせで、思わぬ宝の山に変わるかもしれません。
この記事を書いた人

2002年メディア芸術祭特別賞、第5回Web クリエーションアウォードl人ユニット賞受賞。著書も多数。2011 年9月より内閣広報室・IT広報アドバイザー。同年アルファブロガー・アワード受賞。 ネット発のカバンデザインも好調。ひらくPCバッグで2016年グッドデザイン賞受賞。

医師(病理専門医)、薬剤師、博士(医学)。京都大学薬学部卒・名古屋大学医学部医学科卒・東京大学大学院医学系研究科修了。国立国際医療研究センター病院、国立感染症研究所、アメリカ国立アレルギー感染症研究所、厚生労働省、創薬スタートアップなどを経験。専門は病理学(血液悪性腫瘍と感染症)、ウイルス学・ワクチン学、免疫学。生粋のコンピューター好きで整理・整頓が趣味。
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