1. 導入事例
2022.7.28

スキャナーとAI-OCR/RPAツールの連携で一般財形「払出請求書」のシステム入力を自動化
年間約300時間が削減されたほか、繁忙時の作業負担も大きく軽減

朝日生命保険相互会社多摩本社前の秋山さん、乘本さん、建部さん

左から、朝日生命保険相互会社 事務企画部の秋山宏太郎さん、乘本好乃さん、建部寿々さん

左から、朝日生命保険相互会社 事務企画部の秋山宏太郎さん、乘本好乃さん、建部寿々さん

朝日生命保険相互会社では多様な保険・金融サービスに付随する膨大な事務を効率化するために、RPAを積極的に取り入れて効果を上げています。企業が福利厚生の一環として導入している 「一般財形貯蓄」において、払出請求書をfiシリーズでスキャンし、AI-OCRで認識してデータベースに入力するフローを構築したのはその一例です。東京都多摩市の多摩本社を訪ね、RPA導入などを担当する事務企画部 業務効率化推進チームにお話をうかがいました。

朝日生命保険相互会社
事務企画部

業種:金融

課題
月400通が郵送で届き、随時送金処理が必要な「一般財形貯蓄の払出請求書」の請求内容 をシステムに手入力するため、担当部署では毎日、午前中に時間を割いて対応していた。
解決法
RPAツール導入をきっかけに、AI-OCRとPFUのスキャナー「fi-7800」を連携させて入力作業を自動化する仕組みを構築。
効果
年間約300時間の入力作業が削減され、チェックも楽になった。特に件数の多い日の効果が大きく、他の業務にも余裕を持って当たれるようになった。

1. 月400通が届く払出請求書をスキャンしてAI-OCRとRPAツールに連携、自動で入力

朝日生命保険相互会社 事務企画部 事務設計役の秋山宏太郎さんにうかがいます。まず事務企画部 業務効率化推進チームの担当業務について教えてください。

秋山さん事務企画部は個人保険事務の企画を行う部署ですが、DXによる業務効率化を全社的に担当しており、保険事務のほか、四谷(東京都新宿区)の本社にある総務・人事・経営企画・資産運用といった部署も含めてDXを推進しています。それを具体的に企画・実行するのが業務効率化推進チームで、RPA、AI-OCR、チャットボットなどの導入や開発、管理等を行っています。

部署で稼働するfi-7800の様子
スキャン対象となる払出請求書

「fi-7800」(左)で「一般財形貯蓄の払出請求書」(右)をスキャンしAI-OCRと連携させるフローは、事務企画部が手がけたRPA化の一つです。払出請求書は多くの場合に3枚綴りの複写式で、三つ折りにされて封書で届きます。

「fi-7800」(上)で「一般財形貯蓄の払出請求書」(下)をスキャンしAI-OCRと連携させるフローは、事務企画部が手がけたRPA化の一つです。払出請求書は多くの場合に3枚綴りの複写式で、三つ折りにされて封書で届きます。

ここでは事務企画部がこれまで手がけられた効率化のうち、「一般財形貯蓄の払出請求書」をデータベースに入力する作業をスキャナーとAI-OCR/RPAツールによって自動化した例をご紹介いただきます。「一般財形貯蓄」は、いわゆる「給与からの天引き」で積み立てる貯蓄のことでしょうか。

秋山さんはい、日本のサラリーマンにとって馴染み深い、給与天引きで積み立てる貯蓄です。財形には「一般財形貯蓄」「財形年金貯蓄」「財形住宅貯蓄」があり、このうち一般財形貯蓄(以下、一般財形)は他の2種のような節税メリットこそありませんが、使用目的や契約数に制限がなく、目的に応じて自由に積み立て、いつでも自由に引き出すことができます。引き出す金額は全額でも一部でもよく、残高がゼロになったあとも積み立てを継続することが可能です。

つまり一般財形は銀行の普通預金に近く、そのため払出請求も他の財形に比べて件数が多くなるということでしょうか。

秋山さんはい。結婚・出産・転職・退職といった節目を迎えた人だけでなく、預金感覚で在職中に何度も引き出す人からの払出請求も加わりますから、当社のお客様である企業や団体から、従業員の方々が記入した「払出請求書」が常時、大量に届くことになります。

多摩センター駅に近い朝日生命保険 多摩本社

朝日生命保険 多摩本社。京王電鉄・小田急電鉄・多摩都市モノレール「多摩センター駅」のすぐ近くにあります。

お話をうかがった秋山さん

朝日生命保険 事務企画部 事務設計役の秋山宏太郎さん。

朝日生命保険では何件の一般財形契約を抱えておられますか。また、一般財形の払出請求書は月に何通くらい届くのでしょうか。

秋山さん契約数は2022年3月末時点で約2万件(約3,500団体)です。払出請求書は月あたり約400通を受領し、毎日処理をしています。

それらをできるだけ早く処理するために企業保険部では日々、一定の労力をかけてデータベースに手入力していたところ、RPAによって作業を自動化されたのですね。

秋山さんそうです。以前は企業や団体から払出請求書が届くと、記載されている契約番号や生年月日、金額などを手で入力していましたが、現在は届いた払出請求書を「fi-7800」でスキャンしてイメージデータにし、OCRによる文字認識から入力までをRPAが行う仕組みを活用しています。

これは事務企画部で「紙の帳票をRPAで処理するにはAI-OCRを導入するほかはない」と考え、RPAツール導入後にスキャナーと組み合わせて構築したもので、導入後は手入力にかけていた手間と時間がそっくり削減されました。

同席していただいた乘本さん
同席していただいた建部さん

取材時は事務企画部 業務効率化推進チーム グループリーダーの乘本好乃さん(左)、同じくシニアアソシエイトの建部寿々さん(右)にも同席していただきました。建部さんは自らRPAの開発も行っています。

取材時は事務企画部 業務効率化推進チーム グループリーダーの乘本好乃さん(上)、同じくシニアアソシエイトの建部寿々さん(下)にも同席していただきました。建部さんは自らRPAの開発も行っています。

2. システム入力から支払回答票の出力までを自動化、人は最終確認だけ

払出請求書を「fi-7800」でスキャンしてからRPAツールに連携する運用の流れを、具体的に教えてください。

秋山さん 企業や団体から払出請求書が届くと、担当者が「fi-7800」にセットしてスキャンし、PDF化します。するとRPAが実行され、以降の作業がすべて自動でシームレスに行われます。具体的には、①AI-OCRによるPDFの文字認識、②CSVファイルへの出力、③社内システムで処理するためのExcelへの展開、④社内システムへの入力、の順で作業が進みます。

RPAと連動した検索画面の例
RPAによる試算一覧の画面例

払出請求書をスキャンしたあとは、RPAが自動でイメージデータのOCR認識とシステムへの入力作業を行います。その間、人の手による作業は必要ありません。

OCRの認識結果を確認する工程は設けていますか。

秋山さん 途中で確認することはせず、シームレスで一気に入力まで行い、入力後に紙で出力される「RPA読み取り結果判定シート」と「財形支払試算回答票」という2種類の帳票を払出請求書の原本と突き合わせ、人の目でチェックしています。特に「財形支払試算回答票」は、契約番号・契約者名・生年月日・団体番号から、給付金試算額や送金先金融機関等までの全項目が入力された完成形ですから、それを用いることですべてを確認できます。

人の目によるチェックが欠かせない理由は、OCR認識ミスの発見もさることながら、たとえば請求金額が払出可能金額を超えている場合や、事前登録と異なる金融機関を送金先に指定した請求書などがあるためです。そうした不備が見つかった場合、お客様に確認を行い、請求内容を修正します。また、OCR認識そのものがうまくいっていない請求書があれば、それだけスキャンからやり直します。

出力された「RPA読み取り結果判定シート」を確認している様子

自動入力後、「RPA読み取り結果判定シート」と「財形支払試算回答票」が出力されます。

原本との突き合わせを目視で確認している様子

それらと払出請求書の原本を突き合わせて人の目で確認します。

RPA化による削減効果を、もし数字で表せれば教えていただけますか。また、現場の企業保険部から効率化についての感想が届いていれば、併せてお聞かせください。

秋山さん 試算では年間300時間の削減効果があったと見積もっています。一日7時間働くとした場合の40日強が削減されたという感覚で、おおよそ見込んだ通りの結果です。もともと専任がいたわけではなく、7名の社員が持ち回りで午前中の30分なり1時間なりを使って入力していましたので、その時間が削減されれば当然、時間外労働が減る、余裕を持って他の業務をこなせるようになるといった好循環が生まれます。

現場からは、それまで人の目でダブルチェックしていたところを、第1段階のチェックをRPAに任せられるようになって楽になったという声が届いています。請求件数が多ければ多いほど効果が上がるので、たとえばゴールデンウィーク明けなど、30通から40通を午前中に処理しなければならないときは、1時間単位の時短効果を実感できるそうです。

支払までのリードタイムも短縮されたのでしょうか。

秋山さん 手入力の頃も当日中に処理をしていましたので、支払のタイミングが早くなっているわけではありません。また、もともと正確を期して行っていた業務ですから、正確性という点でも現実的な違いはありませんが、時短による一日あたりの生産性の向上に意味があると思います。

3. 高性能で紙詰まりを起こさない「fi-7800」の導入メリットは大

「fi-7800」は事務企画部で選定されたのでしょうか。

秋山さん はい。実は2年ほど前、本社を大手町から四谷に移転する際、保存しておきたい書類をすべてデータ化しようということになったのをきっかけに、計10台の「fi-7800」を断続的に導入してきました。「fi-7800」は処理が速く、画像がきれいです。画像がきれいであればOCRの認識精度も上がりますから、導入するメリットは大きいと思います。

また、払出請求書はカーボン複写式で非常に薄いものが多く、もしスキャン中に詰まることがあれば破れてしまいますが、「fi-7800」は紙詰まりがほとんど発生しません。それも非常にありがたいですね。

企業保険部に配備されたfi-7800
高速スキャンが可能でコンパクトサイズのfi-7800

企業保険部に配備された「fi-7800」。毎分110枚・220面の高速スキャンが可能です。A3対応機でありながら、デスクサイドにも置けるコンパクトサイズです。

払出請求書は、朝日生命保険指定の統一された書式なのでしょうか。

秋山さん 当社標準の書式もあるのですが、お客様独自の書式であることが多く、現時点で約100種類のフォーマットが存在します。サイズはA4が基本ですが、A5やB4のものもあります。それらを分けずにまとめてセットし、一気に高速でスキャンできることも「fi-7800」を選んだ理由の一つです。

イメージデータからOCR認識した文字をRPAで自動入力するために、払出請求書のフォーマット登録などを行っているのでしょうか。

秋山さん はい、約100種類のフォーマットそれぞれについて「この欄の文字をここに入力せよ」といった指定をして登録しています。中には1枚に5人分、10人分をまとめて書くタイプの請求書もありますが、登録しておけばRPAで処理が可能です。ただ、何年かに一度といった頻度で出てくる登録外のフォーマットに関しては手入力で処理しています。

スキャンした後の払出請求書の原本は、倉庫などに保管しているのでしょうか。

秋山さん 原本は所定の保存ルールに従って、自社の倉庫で10年間保存します。特にファイリングはせず、箱に入れて保管しています。

4. スキャナーとAI-OCR/RPAツールの活用により計14業務の効率化を実現

事務企画部では一般財形以外にも、さまざまな業務で効率化を推進しているとうかがっています。いくつか実例を教えていただけますか。

秋山さん RPAとスキャナー・AI-OCRの組み合わせによって効率化を行った業務が、一般財形を含めて14案件あります。たとえば企業保険部では一般財形業務以外に、団体保険の保険金額変更時の帳票を読み取る「被保険者異動入力(保険金額変更)」で年間83時間、同じく加入・脱退の帳票を読み取る「被保険者異動入力(加入・脱退)」で年間100時間を削減しています。

また、営業企画部の「『お客様の声アンケート』帳票読込」という業務では年間667時間が削減されています。個人のお客様へのアンケートはwebでも並行して行っていますが、紙ベースのアンケートもまだかなり残っているため、アンケート用紙をスキャンして自動で集計することより大きな時短を実現しました。

それらのほかに、開発中のRPAもあるのでしょうか。

秋山さん あります。今まさに、個人保険の保険金部向けのRPAを開発中です。これは個人保険の給付金請求を自動で処理するもので、完成すれば削減効果も非常に大きいと思います。

個人保険は企業保険よりも契約件数が多いということですね。

秋山さん 非常に多く、保険金部の仕事量は社内随一かもしれません。RPA化によって、少なく見積もっても1,000時間の削減は確実でしょう。

今後の活用が期待されるfi-7180

開発中(2022年5月の取材時)のRPAの一つ、個人保険の給付金請求処理にはA4高速スキャナー「fi-7180」を活用する予定です。

お話をうかがった秋山さん

現場へのRPA導入を推進するためには「実物を見てもらい、理解してもらうことが重要」と秋山さん。

秋山さん これらのほか、RPAを使わないケースとして、必要な帳票をすべてスキャンしてPDFファイルを共有フォルダに保存し、コロナ禍対応の在宅勤務時に会社支給のPCで閲覧するということも各部署で随時行っています。スキャナーもAI-OCRもまだまだ活用の余地がありますから、今後も積極的に導入を検討していきたいと思います。

他部署の効率化も手がけている事務企画部のお立場から、企業でRPAを導入する際の「コツ」があればお聞かせください。

秋山さん 一般的に、RPAのような新しい技術を導入すると「使い方を覚える」という仕事が一瞬だけ増えるので、日々忙しい現場から「こう変えたい」という希望が出てくることはなかなかありません。ですからコツといえば、「RPAを導入するとよいと思われる部署の人に、実際の動きを見てもらう」ということでしょうか。現物を見て効果を理解してもらうことが早道だと思います。

本日は詳しくお聞かせくださり、ありがとうございました。

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