1. コラム
2023.6.29

何から始める?自治体DX。スモールスタートで成功させる具体的な進め方

紙書類であふれるデスク

昨今、企業を中心にさまざまな業種・業態で「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が推進されています。自治体でも、人口減少による職員数の減少などから住民サービスの提供が困難になることが予測され、DX推進による負荷軽減、効率化などが急務とされてきました。そして、2021年のデジタル庁発足をきっかけに自治体でのDX推進の流れが活発になっており、DX推進のための補助金なども制定されています。

本記事では自治体の方へ向けて、自治体DXの概要、推進を阻害している要因、確実に進めるためのポイントについて説明しています。また、実際の自治体での取り組み事例もご紹介していますので、DX推進の参考にしていただけますと幸いです。

1. 自治体DXとは?何に取り組めばいいの?

「自治体DX」という言葉を耳にすることが多くなりましたが、いったい何をすること?具体的にイメージできない、という方もいらっしゃるかもしれません。
まずは「自治体DXとは何か」について説明します。

1-1. 自治体DXとは

自治体DXとは、簡単にいうと、「デジタル技術を活用して自治体が抱える問題を解決し、住民の生活をより良くするために自治体が行う取り組み」のことを指しています。

2020年に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」において政府は、デジタル社会の目指すビジョンとして「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」を掲げています。
このビジョンの実現のために、自治体DXの推進が求められています。

ポイント!

目指すべきデジタル社会のビジョンの達成には、地域住民とかかわりが深い自治体の役割は重要であり、自治体DXの推進は必須。

1-2. 自治体でDXを推進する目的・意義

自治体DXの目的は、デジタル技術を活用した行政サービスの改革を進めることですが、デジタル技術を手段としてとらえ、自治体業務の効率化を進めることも重要です。

政府が推進する「自治体デジタル・トランスフォーメーション (DX)推進計画(総務省)」では、自治体においては以下の2点が求められるとされています。

  • 自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させるとともに、
  • デジタル技術やAI 等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていく

ポイント!

住民の高齢化に伴い自治体の「公助」の役割が大きくなる一方で、人口減少に伴う職員数の減少が課題となってきています。
このような中、自治体DXの推進によりデジタル化を進めることで、職員の負担を軽減し、これまで手が回らなかった業務への注力が可能となり、住民への質の高いサービス提供につながります。

1-3. 自治体が取り組むべき重要事項

自治体DX推進の目的を実現するために、自治体が取り組むべき重要事項は「自治体DX推進計画概要」で6つ示されています。

1) 自治体の情報システムの標準化・共通化

自治体ごとに異なるシステムによる非効率性を解消するため、基幹系17業務システムについて国の定めた標準のシステムに移行する施策です。これにより職員の作業負荷が軽減し、住民にとっては手続きの簡素化や迅速化などの効果が期待できます。

2) マイナンバーカードの普及促進

後述の3) を進める上で重要となる施策で、2022年度末までにほとんどの住民がマイナンバーカードを保有することを目指し、申請を促進することです。各自治体では、出張申請受付や土日開庁などの交付体制を充実する取り組みが行われています。

3) 自治体の行政手続きのオンライン化

住民がマイナンバーカードを用いて行える手続きをオンライン化することです。これまで来庁して行っていた各種申請などがオンラインで行えるようになり、住民の利便性が向上します。このオンライン化を推進するために「デジタル基盤改革支援補助金」などの補助金が制定されています。

4) 自治体のAI・RPA利用推進

1)と3) による業務見直しを契機にAI(Artificial Intelligence:人工知能)やRPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務自動化)を導入・活用して事務業務を自動化し、業務効率化を図ることです。

5) テレワークの推進

自治体における働き方改革に向け、テレワークの導入・活用を推進することです。庁外からも業務が遂行できる環境構築に取り組むことが必要です。

6) セキュリティ対策の徹底

行政手続きのオンライン化やテレワークが進むと個人情報や機密情報の漏えいリスクが高まります。このリスクを軽減するためにセキュリティ対策の強化を徹底することです。

デジタル基盤改革支援補助金

「3) 自治体の行政手続きのオンライン化」を推進するための補助金です。マイナポータルと自治体の基幹システムのオンライン接続を行うための経費を、総務省が補助します。デジタル基盤改革支援補助金の概要については、「自治体の行政手続のオンライン化」をご参照ください。

1-4. 自治体DXを阻害する要因

ここまで、自治体DXについて説明してきましたが、推進するにあたって自治体ではどのような課題を抱えているのでしょうか。

自治体のデジタル化の遅れにより、職員の意識がデジタル化の推進に向きにくい

自治体では申請書や請求書に関する業務が多くありますが、それらは紙帳票で運用されており、手続きはアナログのままという自治体もまだまだあります。
そのため、たとえば、申請書の情報を1件ずつ手入力して複数人で確認するという業務を大変だと感じながらも「当たり前のこと」としてこなしていたり、改善したいと思っても予算や時間を確保して改善のために行動を起こすことは難しいだろうとあきらめていたりするという現状があります。

また、自治体ではLGWAN(総合行政ネットワーク)を利用しているためネットワーク環境に制限があり導入が難しいという状況も重なり、デジタル化の必要性と自治体の現状・デジタル化に対する職員の意識との間に乖離が生まれています。

デジタルに強い人材の不足

自治体のDX化が進まない要因の1つに、デジタルに強い人材(デジタル人材)が不足していることがあげられます。
自治体ではこれまで紙を中心に手続き・業務を進めてきたので、デジタル人材が少ないのが現状であり、これがデジタル化に取り組む壁になっています。
そのため、自治体の現場の実務を把握し、業務に即した技術の導入を検討・判断・助言できるデジタル人材の確保が必要です。しかし、このようなデジタル人材をすぐに確保することは難しいといえます。

また、たとえデジタル化するツールを整備できたとしても、それを職員が理解して使いこなせるようにならなければ活用されません。
デジタル人材の確保と、職員への教育・業務への浸透を併せて考えることが必要だといえます。

自治体DXを推進するには、ここまででご説明したことをふまえて、それぞれの自治体が抱えるさまざまな課題を洗い出し、業務の必要性の確認や手続きの簡素化を検討することが必要です。

ポイント!

デジタル技術を活用することの必要性を職員に感じてもらい、庁内全体で取り組むことがスムーズに進めるためのポイント。

自治体推進手順書

総務省では自治体が着実にDXに取り組めるように自治体推進手順書を策定して支援しています。3種類の手順書と参考事例集で構成されています。それぞれの概要については、「自治体DX推進手順書 概要」をご参照ください。

2. スモールスタート!まずは、紙媒体の電子化から

ここまで読んで、「そうはいっても難しそうで、何から着手していいのかわからない」、「使用しているシステムややり方を大きく変えるのは、予算・人材・業務負荷の面から難しい」とあきらめたり、不安を感じていたりする方もいらっしゃるのではないでしょうか。

最初から庁内の業務全体をデジタル化しRPAやシステムと連携して業務の自動化を目指すのは、莫大な時間とコストがかかりますし、うまく進まなかった場合のリスクも大きくなります。
現状の庁内業務を遂行しながら並行してデジタル化を進めるには、まず確実に効率化できるところから始めること(スモールスタート)が重要です。

次に具体的な進め方をご紹介します。

2-1. スキャナーを利用して紙媒体を電子化

スモールスタートの第一歩としておすすめなのが、「紙媒体の電子化」です。
「紙媒体の電子化」とは、紙の帳票や書類(紙媒体)をスキャナーや複合機、プリンターで読み取り、PCで扱えるPDFなどの画像ファイル(電子媒体)などにすることです。
自治体では帳票類の種類や枚数が多いので、スキャナーを利用すると効率よく電子化できます。

スキャナーで帳票を電子化すると、自席からPCで必要な帳票を検索して閲覧できるようになります。庁内業務全体からみると、「紙媒体の電子化」は一部の業務です。ですが、たとえ業務の一部であっても効率化することで職員の負荷が軽減されて楽になると実感できます。

想像してみてください。
紙媒体を電子化すると業務はどのように変わるでしょうか。

たとえば、問い合わせの電話があった場合、紙の帳票が保存されているバインダーを書庫まで取りに行き、必要な帳票を探したあと目視で必要な情報を調べていると思います。電子化することにより離席することなくPCで情報を検索し、住民の方をお待たせせずにその場ですぐに回答することが可能になります。帳票によっては、紙の帳票をファイリングして保管することも不要になるかもしれません。

また、紙媒体が電子化されていればOCR(Optical Character Recognition: 光学的文字認識)を利用して画像ファイルから文字を抽出・認識し、テキストデータに変換する「紙媒体に記載されている情報のデータ化」ができるようになります。

2-2. AI-OCRを利用してデータ入力業務を効率化

「2-1. スキャナーを利用して紙媒体を電子化」でも触れましたが、「紙媒体に記載されている情報のデータ化(紙情報のデータ化)」で取り組みやすく効果が得やすいのは、申請書や申込書といった紙媒体の情報(紙情報)を入力する業務の改善です。

自治体には、紙媒体を使って行う業務がまだまだ多く残っています。そのため、紙を見ながら必要な情報をシステムにキーボードで手入力するという作業を日常的に行っています。
紙媒体が電子化されていれば、この手入力による入力業務をAI-OCRを利用して効率化できます。

AI-OCRを利用すると、これまで人が手作業で行っていた紙情報のデータ化を自動で行えるようになり、入力作業にかかる時間と負荷を削減できます。さらに、手入力からくる人的ミスを防ぐこともできます。

紙情報のデータ化イメージ

また、AI-OCRは、OCRにAIを組み合わせた技術なので、従来は認識が困難だった手書きのクセの強い文字なども高い認識精度でデータ化できます。

2-3. データ入力業務の改善から始めるメリット

ここでは、AI-OCRを利用したデータ入力業務の改善から取り組むメリットについて説明します。

紙情報を短時間で大量にデータ化できる

AI-OCRにより手入力が不要になるため、短時間で大量の紙情報をデータ化できます。たとえば、繁忙期でもデータ入力やチェックのために人員を増やしたり、残業したりせずに対応できるようになります。

チェック作業が省力化できる

データ入力作業の自動化により、入力欄を誤ったり、入力モレしたりといった人的ミスが減り、より正確にデータ化されるので、チェック作業が省力化できます。たとえば、支払依頼の申請書など入力ミスが許されない業務では入力結果の確認を2名で行うことが多いのですが、AI-OCRを導入してデータ入力作業を自動化すれば、チェック作業は1名で行えるようになります。

RPAや外部システムとの連携ができるようになり定常業務の自動化が進む

データ化した情報は、RPAや外部システムと連携できるようになります。
RPAとは、これまで人がパソコン画面で行っていた作業手順をシナリオとして記憶し、それにしたがって自動的に操作を行う技術のことです。
AI-OCRとRPAとを連携することで、AI-OCRで紙媒体の文字列をテキストデータに変換し、必要なデータを抽出してRPAがシステムに入力するといった作業の自動化を実現できます。これにより、繁忙期の業務量の増加に対応できたり、時間外労働や外注コストを減らせたりという効果が期待できます。
また、AI-OCRで変換したデータを利用して、RPA以外の外部システムなどとも連携できるので、紙媒体の情報を他の業務や帳票などに利用できるようになります。

類似業務に横展開しやすい

データ入力業務の改善は効果が出やすく、かつ効果を感覚として実感できる改善です。そのため、1つの業務改善で効率化が進むとこれが成功体験となり、類似した業務への適用がイメージしやすく、横展開しやすくなります。
そして、このサイクルが推進力となり、データ入力業務以外の業務改善に取り組もうという庁内の意識改革にもつながります。

働く環境の改善につながる

紙媒体での業務をデジタル化することにより、山積みされていた紙文書などが庁内やオフィスから消え、オフィス環境が快適になります。また、デジタル化により働く場所の制限がなくなるため、テレワークが可能になり多様な働き方の推進にもつながります。

この紙媒体の情報をAI-OCRを利用して効率よくデータ化する改善は、小さな規模から始めて適用範囲を広げることで大きな業務改善につなげられ、その後のDX化の取り組みも進めやすくなります。
そして、効率化により職員の負荷を軽減し、住民サービスを向上させる業務に集中できるようになります。

「1-3.自治体が取り組むべき重要事項」で説明した施策を進めていく上でも「紙媒体の電子化」と「紙情報のデータ化」の取り組みは必須です。

3. AI-OCRやRPAによるシステム入力作業の改善事例

ここからは、実際にDXに取り組んでいる自治体の事例・活用例をご紹介します。

3-1. 手入力・目視確認が伴う庁内の事務処理業務をAI-OCR利用で60%効率化

石川県かほく市様の業務改善事例をご紹介します。
かほく市様では、先行してRPA導入に取り組んでいましたが、デジタル化された情報しか扱えないRPAを活用するためには、「紙文書をデータ化することが必要だ」と気が付かれ、AI-OCRを取り入れた業務改善を行いました。

自治体情報 石川県かほく市 企画振興課・健康福祉課
人口:3万5,921人(令和4年8月現在)
背景・課題 乳幼児健診の問診票、任意予防接種の申請書の情報を1件ずつ手入力でデータ化し、入力結果を複数人で目視確認しているため手間と時間がかかっていた。
取り組み スキャナーで乳幼児健診問診票、任意予防接種申請書をスキャンし、AI-OCRを利用して文字認識することで手入力業務を自動化。
また、問診表などをファイリングした紙のカルテを、子ども単位でまとめてスキャンして電子カルテ化。
効果
  • 乳幼児健診のデータ入力時間を60%カット。任意予防接種の支払依頼の作業時間を46%カットと効率化に成功。
  • 手入力でのデータ入力作業が不要になり、職員2人で行っていた入力確認も入力者の自己確認+職員1人で対応できるようになった。
  • 電子カルテにより、問い合わせのたびにキャビネットに移動して書類を探す必要がなくなり、座席で電話したまま検索して回答できるようになった。
  • 改善によって時間と心の余裕が生まれ、次のステップの改善を考えるなど職員の意識に変化が生まれ、「改善が改善を生む」良いサイクルが回り始めている。
詳細

3-2. 医療費助成制度拡大に伴う大量データの手入力やチェック作業を大幅削減!

業務システムへの膨大な手入力作業やチェック作業を大幅削減した自治体のケースをご紹介。
このケースでは、RPAツールと組み合わせてデジタル化したデータを自動で業務システムへ連携しています。また、現状のシステムや運用を変えずに手軽に導入し、類似の他業務にも適用して大きな成果をだしています。

自治体情報 某市 保険給付関連課
背景・課題 子ども医療費助成制度の拡充により支給件数が以前の約30倍となり業務量が爆発的に増大した。
職員の業務負荷軽減、膨大なデータ入力・チェック・修正作業を効率化したい。
取り組み スキャナーで申請書類をスキャンし、AI-OCRでデジタル化。
RPAツールと組み合わせてデータを自動で業務システムへ連携。
予算や状況に合わせて段階的に、類似の他の業務にも適用範囲を拡大。
効果
  • 複数部署の類似業務へ導入し、庁内全体で年間1000時間削減。
  • システムへの誤入力や手作業によるミスを削減。
詳細

総務省が各団体の事例をまとめた「地域社会のデジタル化に係る参考事例集」にも参考事例が提供されていますのでご参照ください。

4. 自治体DXの第一歩には業務用スキャナーとAI-OCRの利用が有効(まとめ)

今回は自治体DXの概要、推進を阻害する要因などについて説明し、DX推進の確実な一歩として「紙媒体の電子化」と「紙情報のデータ化」から始めることが有効であること、そして実際の取り組み事例をご紹介しました。

少子高齢化を背景に、自治体職員の人数は減少していくといわれています。このような状況の中で住民サービスを向上させていくためには、デジタル化を推進し、既存業務の見直し・効率化を進めていくことが必要不可欠です。

そして、スムーズに自治体DXを進めるためには、まずはスキャナーとAI-OCRを利用した紙文書のデジタル化に取り組むことが第一歩となります。

紙文書のデジタル化に、PFUでは、大量の書類を高速かつ正確に読み取れるイメージスキャナー「fiシリーズ」と高精度な文字認識で業務システムへの入力業務を効率化するAI-OCRソフトウェア「DynaEye」をご提供しています。

fiシリーズのスキャナーは、デモ機無料貸し出しサービスを実施しております。次のバナーからお申し込みできますのでご活用ください。

また、「DynaEye 11」の無償評価版は次のバナーからダウンロードに進めます。実際に使用している帳票でぜひお試しください。

手書き項目が多い自治体様向けに、帳票のOCR定義テンプレートをWebサイトにて提供中です。ダウンロードして異なる部分を修正するだけで使えるため、よりスピーディーに業務へ導入できます。「DynaEye 11」の無償評価版と併せてご利用いただけます。

サンプル帳票例

以下は、介護保険申請書、給付金認定申請書、給与所得者異動届出書のサンプルです。

OCR定義テンプレートサンプル例 OCR定義テンプレートサンプル例

なお、PFUでは、DynaEyeの事前検証や導入を弊社で対応する「AI-OCRスタートアップサービス」も行っています。「導入までの事前準備が大変そう」、「導入前に効果を確かめておきたい」、「導入後の運用が心配」といったお客様におすすめのサービスです。

今回ご紹介した情報を参考に、紙媒体の電子化、文字認識によるデータ化を使った「データ入力業務の改善」から自治体DXを始めてみてはいかがでしょうか。

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