弁護士と税理士が激論!
改正電帳法への対応で「本当に大切なもの」は何か?

企業の経理部門に関わる法律や制度が大きく変わりつつある。2022年(令和4年)に施行された「改正電子帳簿保存法」を始めとした法制度の内容は、企業活動のデジタル化を促すものとなっている。こうした変化の中で、企業はどのように対応するべきか。これまで多くの企業のデジタル化対応を支援してきた牧野 二郎弁護士と袖山 喜久造税理士の対談を通じて、企業がとるべき方策を明らかにする。

政府がデジタル化に舵を切り各種法律を整備

──電子帳簿保存法(以下、電帳法)の改正や電子契約など、経理業務を中心にデジタル化を進める法律が整備されています。こうした法制度は、今までどのように変化してきたのでしょうか。

牧野 二郎弁護士(以下、牧野氏):政府はコロナ禍に突入する前から、我が国のIT活用が遅れていることを深刻に受け止めていました。IT活用の遅れはコロナ禍においてより顕著なものとなり、2020年に「経済財政運営と改革の基本方針」が閣議決定され、デジタルトランスフォーメーション(DX)を早急に進めるという方向性が示されました。これを機に、各省庁が法改正に乗り出したわけです。

2020年12月には電帳法改正に向けた動きが始まり、2021年には「デジタル社会形成基本法」が成立し、それに伴って複数の法律が整備されました。デジタル社会形成基本法成立時に押印廃止を推し進めたことで、デジタル化に向けて一気に舵が切られたのです。たとえば「宅地建物取引業法」が改正されて、建築確認や工事契約書、重要事項の説明(以下、重説)などにおける押印はすべて廃止され、リモートでの内見やIT重説を認めるといったように、各業界でデジタル化に関する法整備が進んでいます。

デジタル化が進む過程で、電子契約も解禁されました。電子契約も今までは「当事者型」と言われる「本人の電子証明書を持った電子署名を求めるべき」という考えに立っていました。しかし、法務省、経済産業省、総務省3省の共管で、確実に本人確認ができるシステムで裏付けられていれば第三者が提供する電子署名、いわゆる「立会人型」も認めるように解釈が変更されています。

牧野総合法律事務所弁護士法人 所長
弁護士 牧野 二郎氏

袖山 喜久造税理士(以下、袖山氏):一連の法制度の改正には、「政府が中心になってデジタル化を進めるから、企業の皆さまもそれを理解して追従してください」というメッセージが込められています。

──しかし、日本の経営者の多くは、まだデジタル化に踏み切れていません。そのため、改正電帳法への対応にも2年間の宥恕(ゆうじょ)措置が設けられました。企業や経理部門は取引や契約のデジタル化をどう捉え、対処していくべきでしょうか。

改正電帳法への対応は全社をあげて取り組むべき

袖山氏:改正電帳法への対応を経理部門のみの話と捉えてはいけません。経理部門の主たる業務領域は、支払、帳簿記帳、そして決算書や申告書の作成などです。たしかに支払や帳簿作成は、税務の観点からも重要な業務となりますが、経理業務は会社全体の業務の一部分に過ぎません。

経理部門が扱う請求書や領収書は、取引の過程の最後に授受される書類であり、取引先とは取引の過程において見積書や契約書、注文書、納品書、検収書のほかにもさまざまな書類やデータがやり取りされています。法人税法では取引に関して書面(紙)でやり取りされた取引書類そのものが保存対象となりますし、電帳法で規定される電子取引は取引に関する情報をデータでやり取りしたデータが保存対象となります。

そうすると、経理部門だけが扱う取引書類だけではなく、会社が行う取引に関して授受された書面書類やデータはすべて保存対象となります。また、改正電帳法では、電子取引により授受されたデータの出力書面による保存が廃止されていますので、データで保存する場合には、会社全体で行われている電子取引が対象となります。

経理部署においては、取引の過程で発生しているすべての書類を確認することができず、請求書や領収書の内容、手続きにおいての部署ごとの承認の有無などのみを確認している会社も多いと思います。税務調査の際は、経理で扱う帳簿や請求書、領収書などだけを調査するわけではありません。帳簿から抽出された取引について、取引の事実を確認するため、経理部署以外で発行や受領した取引過程の取引書類などの調査が進められます。取引の事実に基づいて請求書や領収書が発行されているかどうかはなかなか経理部署だけでは確認することができず、税務調査において不適切取引などを指摘される場合もあります。

会社で行われている業務処理において、適正に取引が行われているかの確認や管理を行うには、取引の流れを鳥瞰し、発生している取引の証拠となる取引書類を一元的に管理する必要もありますが、紙の取引書類をこのような一元管理することは非常に手間と時間がかかることになります。取引の過程で発生している取引書類をすべてデータで一元管理することができるとしたら、紙書類を回付する手間やファイリング作業などは発生しません。

今後、業務のデジタル化を検討する会社においては、こうしたガバナンスが向上するデータ管理を行うことも視野に入れた検討をしていただきたいと思います。改正電帳法の対応で電子取引データを保存することのみを検討する、あるいはインボイス制度の対応のみを検討することではなく、社内で行われている業務処理についてデジタル化による業務効率、ガバナンスが高まる業務変革が望まれる電子化の目的であろうと思います。

SKJ総合税理士事務所 所長
税理士 袖山 喜久造氏

牧野氏:弁護士としては、循環取引などのように架空の取引で経理部門をだます行為を回避するという視点も付け加えておきたいですね。こうした犯罪行為の被害を受けないためには、経理部門だけではなく、契約に付随する履行行為からすべてデジタル化し、透明性を担保する必要があります。つまり電帳法対応に関しても、内部統制を含めて全体を客観的に見なければなりません。

袖山氏:従来の紙ベースの業務フローでは、経理部門には請求書や領収書しか回ってこないことが多いと思います。契約や見積り、納品や検収といった取引の過程で発生する書類は各担当部門が管理しているため、経理部門がすべてチェックできない体制となっているためです。しかし、牧野先生がご指摘されたような循環取引など不正行為が行われると、上場企業であれば虚偽の決算書を作成したことによる経営者責任が問われます。業務処理全体がデジタル化されて、データ管理を的確に行えば、監査部門や経理部門で確認ができることになりますし、業務管理をしっかりと行うことによる不正へのけん制効果などによる不適切処理自体を減らすこともできるようになります。

──経理領域に限られた話ではなく、会社全体で取り組むべきDXの話であり、企業の内部統制強化の一環でもあると。

牧野氏:紙とハンコのプロセスが残っていることで、我々弁護士や会計士に契約書や決算書類の作成依頼が来て事業が成立しているという側面もありますが、デジタル化すればそういった作業自体が内製可能となり経費が削減できます。何より袖山先生がお話しになった、「書類を持っている部署が支配的になっている」というタコつぼ現象が社内の風通しを悪くしていることに、経営者は早く気付くべきです。

インボイス制度への対応にデジタル化が必要な理由

──2023年10月にはインボイス制度も控えていますが、同制度にデジタル化が求められる理由には何があるのでしょうか。

袖山氏:インボイス制度は、これまでと同様に、請求書などを紙で発行する、受領した紙の請求書を紙のまま処理するといったアナログ(紙)で対応することも十分にできると思います。ただ、インボイス制度において対応が必要な適格請求書はデジタルデータで発行することができるように消費税法では措置がされています。

インボイス制度を電子化で対応するには、適格請求書をデータで発行する、受領した適格請求書をデータで処理しデータで保存するなどの対応をとることになります。データで発行や受領する行為は、電帳法で規定される電子取引に該当しますので、電帳法の法令要件に従ったデータ保存の検討が必要となります。また、データ保存だけではなく、授受された適格請求書データをどのように活用するかにより経理業務のDX化ができるかどうかが違ってきます。

運用支援でデジタル化を強力にサポート「あんしんエビデンス管理」

──企業が法整備とともにデジタル化を進めるにはどうすれば良いでしょうか。多くの企業にとっては改正電帳法対応が喫緊の課題となっていますが、お二人はPFUが提供する電帳法対応システム「あんしんエビデンス管理」の、導入ガイドブックを監修されたと伺っています。ベンダーの運用支援も、デジタル化のカギを握るということでしょうか。

袖山氏:電子化を行う上で保存される取引書類をデータで保存する場合には、電帳法の法令要件を遵守したシステムの利用は必須です。紙書類のデジタル化では電帳法4条3項のスキャナ保存、電子取引による取引情報の保存では電帳法7条の規定に従った保存が必要ですので、保存するシステムはこれらの電帳法の要件を満たしたシステムである必要があります。

今後書類の発行などをデジタル化する企業は増加することは想定されますが、紙書類がゼロになるわけではありません。紙書類を受領した場合はスキャンしてほかの取引書類データと一元管理し網羅性を確保した保存方法を検討する必要があります。また、単に取引書類をデータで保存するだけでは電帳法の法令対応ができているとは言えず、特にデータ入力や授受からデータ保存に至るプロセスについては社内ルールにより適正に行われることを担保する必要もあります。特にスキャナ保存では、受領した紙書類の原本は廃棄されますので適正な入力や保存は特に重要になります。

システム導入だけではこうした運用はカバーできません。そのため、運用支援が備わっているサービスがあるベンダーを選ぶことが1つのポイントです。PFUあんしんエビデンス管理の導入ガイドはその1つの良い手段と考えます。

牧野氏:あんしんエビデンス管理は、PFUが実務で使ってさまざまな問題を克服してきた成果物ですので、扱いやすいソリューションであることは間違いないでしょう。ガイドブックは分厚いですが、辞典のように担当者の疑問を解消してくれる内容になっています。

──改正電帳法への対応に苦慮している経理部門、デジタル化を推進しようと試みている企業に対して、メッセージをお願いします。

牧野氏:改正電帳法については、企業の経営者と経理、会計の責任者が意思を統一し、内部統制を図りながらデジタル時代に対応できる企業をどのように作るのか考えるきっかけとすべきでしょう。紙に赤いハンコを押さなければならないという古い常識とは決別して、合理的な仕組みを備えられるようにしてほしいですね。そして法務の責任者は、企業の取り組みを見守っていきましょう。

袖山氏:改正電帳法やインボイス制度に対応する上で重要なのは、会社全体の業務をどう変革するか、データをどのように活用するかを見据えて対処することです。そして電子取引やインボイス制度の電子化による対応をきっかけとして、取引先間で授受される取引情報のデジタル化もどんどん進め、経理業務以外の業務についてのDX化の検討を進めるべきです。デジタル化による業務変革の方向性を見極め、法令や制度対応を場当たり的に行うことがないように検討を行ってください。

(本記事は2022/9/22にビジネス+ITへ掲載された記事です)

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