「利用者が書かなくてよい」窓口手続きを実現
スキャナーと異動受付支援システムで市民サービスが向上、職員の業務も効率化
山口市・地域生活部・市民課
業種:自治体
山口市人口:194,110人(令和2年10月)
課題:住民異動届(特に転入)の処理に手間と時間がかかり、利用者と職員双方の負担になっていた。
解決法:PFUのスキャナーを活用した届書作成の支援システムを導入。
効果:「利用者が書かなくてよい」届書作成を実現し、職員の業務効率化も推進している。
スキャン後に自動で入力された文字情報を確認してタブレット上で署名をすれば住民異動届の届書が完成します。山口総合支所の市民課窓口にて。
スキャン後に自動で入力された文字情報を確認してタブレット上で署名をすれば住民異動届の届書が完成します。山口総合支所の市民課窓口にて。
自治体行政スマートプロジェクト(総務省)、デジタル手続法(令和元年成立)と、行政における手続き効率化を促進する動きが広がる中、山口市 地域生活部 市民課では住民異動に伴う届出や住民票の交付を効率化する支援システムを導入。PFUのスキャナーを活用したシステムを稼働させ、市民サービスの向上を実現しつつあります。山口市の山口総合支所を訪ねてお話をうかがいました。
転出証明書をスキャンして住民異動の届書を自動で作成
異動受付支援システム(以下、支援システムと表記)の市民課への導入を主導された藍原元夫さんにうかがいます。はじめに市民課の業務内容と、支援システムが関わる範囲について教えていただけますか。
藍原さん:山口市の市民課には、住民異動届の受付や住民票などの交付を行う記録担当、戸籍届出の受理などを行う戸籍担当、パスポート交付などを行う管理担当、マイナンバーカードに関する業務を行うマイナンバーカード交付担当があります。このうち支援システムが主に関わるのは、記録担当が行う住民異動届の受付と入力、住民票の交付です。
住民異動届は転入・転居・転出という、住所変更に伴う手続きを行うために必要な届書です。もともとは3枚綴りの用紙に、届出人の名前、届出の日付、異動する年月日、新住所、旧住所、新居の世帯主、異動する方の氏名・生年月日・続柄、学校に通っている小中学生のお子さんがいる場合は学校名、そのほか外国人の方専用の欄と、すべての事項を手書きしていただくものです。
山口市 地域生活部 市民課 マイナンバー交付担当副参事の藍原元夫さん。異動受付支援システムの導入を主導しました。
山口総合支所の1階にある市民課の窓口。比較的空いているという6月の取材でしたが、利用者が次々と来庁していました。
左:山口市 地域生活部 市民課 マイナンバー交付担当副参事の藍原元夫さん。異動受付支援システムの導入を主導しました。
右:山口総合支所の1階にある市民課の窓口。比較的空いているという6月の取材でしたが、利用者が次々と来庁していました。
多くの人が一度は書いたことがある届書ですね。間違えずに書き込むのは一苦労です。
藍原さん:そうだと思います。書き込むための時間も、ご家族が多い場合には数分を要します。それに多くの方は届出と同時に新しい住民票も必要とされるので、住民票交付申請書にも住所・氏名・生年月日を書いていただくことになります。
住民異動届は職員にも負担がかかります。まず受け付けるときにご本人確認と記載内容の確認・修正を行うので、その段階で10分から20分が経過します。次に職員が届書を見ながら住民記録システムに入力を行います。住民票の申請がある場合は特に急ぎますが、短くても5分程度は取られますね。また内部で入力審査も行いますし、マイナンバーカードをお持ちの場合はカードの住所変更作業とも連携させます。
届出だけの利用者は受付が終われば帰れますが、住民票の申請をしている場合は待ち時間が発生するわけですね。
藍原さん:はい、特に転入の場合が大変です。転入される方はこれまで市民ではなかった方ですから、お名前と生年月日から始まるすべてを入力するので、いちばん時間がかかります。繁忙期はもちろんのこと、平時でもお待たせしないよう常に戦っているような状態です。
手書き用の住民異動届の用紙(上/転入・転居・転出共通)と、同じく住民票交付申請書(下)。特に転入では、住民異動届の必要事項を書き込む手間が大きい場合があります。
手書き用の住民異動届の用紙(左/転入・転居・転出共通)と、同じく住民票交付申請書(右)。特に転入では、住民異動届の必要事項を書き込む手間が大きい場合があります。
繁忙期と平時、それぞれ一日あたり何人の利用者が来庁するのでしょうか?
藍原さん:3月末から4月初旬の繁忙期には一日に250人近くの方が住民異動の届出のために来庁され、50~60人待ちという状況が1週間ほど続きます。届出の内容は、3月に入る頃から転出が増え、3月末から4月の頭にはほとんどが転入になります。一方、繁忙期以外の平時では、住民異動の届出が一日30件ほどで、そのうち転入は平均すると3割というところです。
繁忙期はいうまでもなく、平時でもそれだけの件数があるのですね。
藍原さん:はい。そこでこのたび、主に転入の手続きを効率化するため支援システムを導入し、2021年2月から稼働させています。
支援システムは、転入の手続きにいらしたお客様からお預かりした転出証明書(旧住所の役所が発行したもの)をスキャンして、新住所や旧住所などの記載内容をOCRで読み取り、画面上の届書の書式に自動で反映させるものです。これはICTの活用で市民サービスを向上させる自治体行政スマートプロジェクトの一環でもあり、市民課においては前述の状況を解決し、「お客様が書かなくてよい」というサービスを実現しようとするものです。
山口市の人口について
山口市 地域生活部 市民課 課長 横沼浩志さん
山口市 地域生活部 市民課 課長 横沼浩志さん
全国的な人口減少傾向の中、山口市の人口も減ってはいるものの、平成27年から令和2年までの増減率は-1.7%と、推計よりも低く抑えられています。これは自然減に対して、いわゆるUJIターンによる転入が増加傾向にあるためです。特に30~39歳の子育て世代の転入が転出を上回っているのが特徴です。山口市では「定住サポーター制度」と「空き家・空き地バンク制度」によって、過疎地域への移住・定住希望者に対して、古民家などの空き家や農林業などの仕事の情報を発信してサポートを行っています。子育て世代の転入は、こうした取り組みが一定の成果を上げているものと考えています。
利用者の「書く」負担を軽減し、サービスを向上
支援システムを利用する際の具体的な手順を教えてください
藍原さん:山口市では市民課の窓口が非常に狭いため、その前方に総合受付を設置しています。ここでご用件などをお聞きし、転入の届出であれば職員が転出証明書をお預かりして、バックヤードに置いたスキャナーでスキャンします。そのスキャン画像を支援システムがOCR処理し、画面上の届書に、日付・新住所・旧住所・新世帯主・旧世帯主・異動する人など、お名前以外の必要事項を自動で入力します。
入り口近くに設けられた総合受付(上)で用件を確認します。これで以降の流れがスムーズになります。
入り口近くに設けられた総合受付(左)で用件を確認します。これで以降の流れがスムーズになります。
転入する利用者から転出証明書を預かり、バックヤードに設置した「fi-800R」でスキャンします。そのスキャン画像を元に支援システムがOCR処理を行います。
「fi-800R」は支援システムの入ったPCに接続されています。
左:転入する利用者から転出証明書を預かり、バックヤードに設置した「fi-800R」でスキャンします。そのスキャン画像を元に支援システムがOCR処理を行います。
右:「fi-800R」は支援システムの入ったPCに接続されています。
藍原さん:自動で入力されたら、職員が転出証明書と画面上の届書を照合して確認し、必要なら修正を加え、職員側がチェックする欄の入力を済ませます。すると窓口に置かれたタブレットに届書が表示されるので、お客様と職員で確認したのち、よろしければタブレット上でお名前を書き込んでいただきます。これで受付が完了します。
この自動入力は届書に対するものですが、従来職員の方が行っていた住民記録システムへの入力も兼ねているのでしょうか。
藍原さん:そうです。支援システムと住民記録システムが連携しているため、届書への入力が、すなわち住民記録システムへの入力にもなっています。
住民票が必要な場合、その申請はどうなるのでしょうか。
藍原さん:スキャンしてOCR処理された転出証明書の文字は、住民票交付申請書にも自動で反映されます。ですから、これもお客様に手書きしていただく必要がなくなります。
支援システム画面上で作成される住民異動届の用紙(上/転入・転居・転出共通)と、同じく住民票交付申請書(下)。スキャン画像からOCRで読み取られた文字が反映されます。なお、支援システムは転居・転出の届出にも利用できます。
支援システム画面上で作成される住民異動届の用紙(左/転入・転居・転出共通)と、同じく住民票交付申請書(右)。スキャン画像からOCRで読み取られた文字が反映されます。なお、支援システムは転居・転出の届出にも利用できます。
つまり、住民異動届と住民票交付申請書を利用者が手書きする時間と、バックヤードで職員の方が入力する時間が、ともに削られるということですね。
藍原さん:図式的にはそうなります。ただ、短いとはいえスキャンする時間と、OCRで正しく読み取れているかどうかチェックしたり修正したりする時間が発生するので、どれだけの時間が削減できたかはまだ統計が取れていません。とはいえ、たとえ修正が出たとしても手で一から入力するよりは早いこと、「お客様が書かなくてよい」という目標が達成されていることから、支援システムの導入で効率が上がったと考えています。それに住民票交付に要する時間だけを取れば、これも短縮されているはずです。
転出証明書のスキャンデータは、住民記録システムと住民票交付申請書の他にも応用できるのでしょうか。
藍原さん:はい、住民異動届は市民課だけでなく他の課の手続きにも関係していますので、他の届書にもデータを活用して自動印字できるようになっています。具体的には国民健康保険、国民年金、福祉医療、後期高齢者、介護保険、児童手当、障害者福祉、それに学校教育に関係する手続きです。これらには支援システムから直接、データを送ることができます。
住民記録システムを経由することなく直送できるのは、かなり便利ですね。
藍原さん:そうですね。支援システム側のメニューでそれらの申請書も選べるようになっています。主に活用されるのは住所・氏名・生年月日ですが、それだけでも書かなくて済むに越したことはありません。またデータを活用すれば、他の課の作業もその分は減ることになります。
2月に支援システムを導入されてからは常時稼働でしょうか。
藍原さん:基本的にはそうですが、ある課題のため繁忙期のみ、途中からいったんアナログに戻しました。支援システムでは、各自治体で異なる転出証明書の様式をあらかじめ登録しておく必要があり、それがまだ完全にはできていません。どの自治体から転入されてくるかは予測しきれないので、業務の混乱を避けるために元のアナログに切り替えたという事情です。
ただし平時に戻った現在(2021年6月)はデジタルでおおむね順調に運用できています。申請の9割は読み込めるようになっており、また同時進行でベンダー側が未登録の様式の登録作業を進めています。
タブレットに表示された届書に利用者がデジタルペンで氏名を書き込むと受付が完了します。大きいタブレットは手前に傾斜がついており、とても書きやすいものです。
支援システムで実現した「書かなくてよい」に対して、利用者はどのような反応を示していますか
藍原さん:やはりお客様は手で記入することを前提に来庁されますので、「書かなくていいんですか?」と驚かれることはありますね。また、窓口のタブレット上にデジタルペンでお名前を書いていただくときも、非常に書きやすいタブレットを使用しているため、ご高齢の方でも抵抗なく署名していただくことができます。
コンパクトな「fi-800R」は狭い庁舎でも使いやすい
支援システム導入にあたり、スキャナーにPFUの「fi-800R」を選択された理由をお聞かせください。
藍原さん:コンパクトで場所を取らないということです。建物が古くて狭いため大きいスキャナーを入れられず、支援システムのベンダーから「fi-800R」を薦められました。現在の導入台数は3台です。本来でしたら支援システムのある4つの窓口に設置したいのですが、住民記録システムも置く必要があるためスペースが足りず、スキャナーはバックヤードに置いています。今2台を置いている棚もかなり狭いのですが、「fi-800R」がコンパクトで、スキャンした紙を上方に送るUターンスキャンができるため、非常に助かっています。
バックヤードに設置された「fi-800R」。コンパクトなのでデスクの棚に2台並べることもできます。
「fi-800R」は狭い場所でも使いやすい窓口業務向けスキャナーです。スキャンした紙が上方に戻るUターンスキャン機能(写真)により前後のスペースも不要です。
左:バックヤードに設置された「fi-800R」。コンパクトなのでデスクの棚に2台並べることもできます。
右:「fi-800R」は狭い場所でも使いやすい窓口業務向けスキャナーです。スキャンした紙が上方に戻るUターンスキャン機能(写真)により前後のスペースも不要です。
スキャンすることで届書原本の検索と保管も効率化
「fi-800R」を支援システムのOCR処理以外の目的で活用することはありますか。
藍原さん:出来上がった届書自体のスキャンに活用しています。支援システムで作成した届書は、最終的には紙に出力し、それを原本にして決裁します。この原本をスキャンしてデジタル保存しています。従来は原本をファイルに綴じて書庫の棚で保管していたため、あとから原本を探し出すのが大変でした。それがスキャンによって、デジタルでスムーズに検索・表示できるようになりました。過去の申請を検索する機会は一日に数件ありますので、これは大きな効率化といえます。またファイリングの必要がなくなったため、書庫のスペース効率も上がりました。
終わりに、ICTを活用した市民サービス向上の取り組みが他にもあれば教えてください。
藍原さん:支援システムの他に、総合受付にいらした方に窓口の混雑状況を配信するシステムと、マイナンバーカードや免許証の中のデータを直接引き出して申請書の作成をサポートするシステムの二つを導入しています。特に効果が高いのは前者で、お客様のスマートフォンに状況をお知らせできるほか、何人のお客様をどのくらいお待たせしているかが職員にわかり、さらにはデータの蓄積と分析も可能です。これまでも何曜日の何時にお客様が多いといったことは感覚的にわかっていましたが、より正確に可視化できるようになったため、人員配置などに非常に役立っています。
自治体行政のスマート化という意味では、最終的に「お客様が自宅からオンラインで手続きできるようにする」のが理想です。そのためにはシステム間の連携の問題をはじめ、解決すべきことがまだまだたくさんあります。いろいろなことを試しながら、少しずつでも前進したいと思っています。