記帳代行の入力・仕訳の自動化で作業効率が大幅にアップ
スキャナーと自動記帳サービスの連携により負担の軽減と本来業務への回帰を目指す

あらた税理士法人

業種:税務・会計

スタッフ数:30名(うち税理士2名、中小企業診断士4名
社会保険労務士1名/2021年11月現在)

課題:記帳代行業務で紙の証憑を見ながらの入力作業が非常に多く、専任スタッフを増員しても間に合わない。

解決法:PFUの業務用スキャナー「fi-7180」と自動記帳サービス「STREAMED(㈱クラビス社製)」を導入し、記帳代行業務を極限まで自動化する実証実験を開始。

効果:手作業から解放され、税務申告やコンサルティングなど税理士本来の業務に時間を割けるようになる。効率化による顧客増・収益増のほか、テレワーク実現の見込みも立つ。

あらた税理士法人の代表社員、井上新さん。
愛知県豊明市の事務所前にて。

あらた税理士法人の代表社員、井上新さん。
愛知県豊明市の事務所前にて。

デジタル化と効率化を模索する税理士業界において、紙証憑が付き物の記帳代行業務の効率化は長年にわたる大きな課題です。愛知県豊明市で約300の顧客を35年にわたってサポートしている「あらた税理士法人」では、PFUのスキャナーを入り口にして仕訳と試算表作成を極限まで自動化するシステムを構築し、業務の効率化を推進しています。その具体的な内容と今後の展望をうかがいました。

20名の入力部隊でも追いつかない記帳代行と、膨らむ教育コストが悩みの種

「あらた税理士法人」代表社員の井上新先生は、平成16年(2004年)に日本で最初に電子申告を行った税理士としても知られています。まずは税理士業界のデジタル化の現状についてお聞かせください。

井上さん:僕が電子申告をしたときは「これからは電子の時代だ」と媒体に取り上げられたものですが、それから電子申告が一般化するまで15年近くかかりました。また僕は元来のパソコン好きでもあることから、税理士業界のIT広報マンのような立場で国政との調整なども長年行ってきましたが、さまざまな理由で簡単には進まなかったのが現実です。それが近年ようやく業界全体がデジタル化の方向に舵を切りました。それは当然の話で、デジタル庁までできるような時代に紙主体でやろうとするのはそもそも無理なのです。

紙というのは、主として領収書やレシートに代表される証憑のことですね。

井上さん:その通りです。この証憑をお客様からお預かりして我々が手入力で記帳し試算表を作る、いわゆる記帳代行業務が私たちの仕事を大きく圧迫しています。当事務所の場合、地域経済に貢献するため豊明市・名古屋市・刈谷市の法人や個人の事業者を顧客にしており、その数はおよそ300に及びます。もちろん中には記帳代行が月次ではなく数か月に1回の顧客や、自社で試算表まで作成する顧客もありますが、トータルで見れば相当な手間と人的コストがかかっています。これこそがデジタル化で解決すべき最大の問題です。

代表社員の井上新さんは税理士・中小企業診断士・ITコーディネータ・行政書士の資格を持ち、名古屋税理士会副会長など数々の要職を歴任してきました。

あらた税理士法人の前身は井上さんが昭和62年(1987年)に豊明市で開業した井上新税理士事務所です。開業当時からの顧客も少なくありません。

左:代表社員の井上新さんは税理士・中小企業診断士・ITコーディネータ・行政書士の資格を持ち、名古屋税理士会副会長など数々の要職を歴任してきました。
右:あらた税理士法人の前身は井上さんが昭和62年(1987年)に豊明市で開業した井上新税理士事務所です。開業当時からの顧客も少なくありません。

あらた税理士法人では業務用スキャナー「fi-7180」と自動記帳サービス「STREAMED」の連携による記帳の自動化システムを構築中とうかがいました。

井上さん:そうです。とにもかくにも紙の証憑をデータ化しなければ話になりませんから、第一にスキャナーの導入が必須です。その先にあるのが「STREAMED」など適切なサービスの活用です。

では現状、あらた税理士法人では記帳代行業務に対して、具体的にどのくらいの時間をかけているのでしょうか。経営戦略部の石川康平さんにうかがいます。

石川さん:現在、当事務所には顧客対応の外回りをする経営戦略部に10名、記帳のための入力を行うデータエントリーに約20名のスタッフがいます。外回りの10名が顧客を分担し、基本的には月次で証憑等の資料を持ち帰ります。それをデータエントリーが受け取り、会計ソフトへの入力とチェックを行います。
データエントリーが入力とチェックにかける時間は、外回り1人が月次で持ち帰る資料に対して、フルタイムのスタッフ1名が月に160時間、パートタイムのスタッフ4名がそれぞれ月に80時間で計320時間といったところですから、毎月合計で480時間が費やされていることになります。

月次で預かってくる証憑などの紙資料は1件だけでも相当な量になります。

石川康平さん。MBAの資格を所有し、あらた税理士法人では外回りをする経営戦略部の1人として活躍しています。

左:月次で預かってくる証憑などの紙資料は1件だけでも相当な量になります。
右:石川康平さん。MBAの資格を所有し、あらた税理士法人では外回りをする経営戦略部の1人として活躍しています。

井上さん:このように現状では相当数の入力部隊が必要です。記帳代行を請け負う場合、顧問料とは別に記帳代行料を申し受けてはいますが、業務の効率という点で早急に改善しなければなりません。

石川さん:仕訳の仕方がお客様によってまちまちであることも効率悪化の一因です。たとえばガソリン代を旅費交通費にするのか、燃料費にするのか、消耗品にするのかといったことは事業者によって異なるため、ある顧客の仕訳に慣れた人が行わないとスムーズに進まないというように、業務が属人化する傾向があるのです。これは新しく入った人に仕事を覚えてもらうための教育コストがかさむということでもあります。
こうした問題を抱えながらも、当事務所では顧客数の拡大にスタッフを増員して対応してきました。私が入社した当時、データエントリーは8名でしたが、現在は2倍以上です。ところが近年、顧客が増加するペースに増員と教育が追いつかなくなりました。また業界のデジタル化に伴い、大手事務所では業務効率化による低価格化が発生しています。この状況を受けて、当事務所でも手作業による業務をなるべく減らしてテクノロジーを活用した効率化を推進したいと考えました。そこで当事務所の基幹会計ソフト「PCA」のメーカーであるピー・シー・エー株式会社に相談したところ、スキャナーと「STREAMED」を連携させるのがよいという情報を得て、このたびの導入と実証実験に至りました。

業務用高速スキャナー「fiシリーズ」と「STREAMED」を連携させて証憑入力と仕訳を自動化

実証実験の具体的なフローについてお聞かせください。

石川さん:まず、顧客から預かってきた領収書やレシートをまとめて「fi-7180」にセットし、高速でスキャンします。スキャン後はあっという間にイメージデータ化されますので、それを「STREAMED」に送って仕訳データにしてもらいます。

記帳代行業務自動化のために導入した業務用スキャナー「fi-7180」。領収書やレシートを高速でスキャンし、データ化します。

自動画像処理機能によってサイズを検出し向きを補正するので、A4書類もレシートもそのまま重ねてセットするだけでスキャンできます。

左:記帳代行業務自動化のために導入した業務用スキャナー「fi-7180」。領収書やレシートを高速でスキャンし、データ化します。
右:自動画像処理機能によってサイズを検出し向きを補正するので、A4書類もレシートもそのまま重ねてセットするだけでスキャンできます。

石川さん:なお、「STREAMED」は画像を1枚ずつ切り出して仕訳データから遡れるようにしてくれるので、顧客単位でまとめてスキャンして差し支えありません。また仕訳データになってからソートできるので、領収書やレシートを日付順に並べ直す必要もありません。

かなり優れたサービスといえますね。

石川さん:そう思います。実は「STREAMED」を知る前、当事務所ではスキャン画像からOCRで文字を抽出するオリジナルソフトを試作したことがありますが、うまく機能させることができませんでした。また、スキャンした画像を見ながら従来のように手で入力することも試しましたが、意外なことに紙を見て打つよりも手間がかかり、作業効率が落ちることがわかりました。それでは単にスキャンの工程が増えるだけになってしまうので、スキャン後に何か一つ仕組みを噛ませる必要があると考えていました。

デジタル化の入り口としてのスキャナーと自動記帳サービスの「STREAMED」、両者を連携させて初めて効果が生まれるということですね。

石川さん:そうです。「STREAMED」の場合、スキャン画像を送るとAIで仕訳し、その結果を人が確認した上で1営業日以内に仕訳データとして送り返してくれるので、そのCSVファイルを会計ソフトの「PCA」に流し込めば試算表までを作成できるという流れになります。
もちろん「STREAMED」から戻ってきた仕訳データはデータエントリーのスタッフがこれまで同様すべてチェックしますが、もともと要していた時間の多くが手入力に起因していることは明らかですので、入力の工程がなくなった分、大幅な効率化が達成できていることになります。

「STREAMED」の精度はどのように評価していますか。

石川さん:数字に関しては高いと感じています。また、水道光熱費や家賃といった繰り返し出てくる仕訳に確実に対応してくれるのもAIならではのことです。難しい仕訳に対応できないこともありますが、当方で資料の画像を見てチェックすれば解決する範囲です。ポイントはあくまでも、一度覚え込ませればいつも同じアウトプットになるというAIの特徴を利用することにあります。それによってスタッフの教育コストが下がるわけですから。
なお、現在は実験段階のため「STREAMED」と「PCA」の連携がスムーズにいくよう設定をいろいろ試しており、運用が始まれば紙資料を数日で顧客にお返しできることになります。手入力だと資料をお預かりしてから翌月までに作業を終えるというペースでしたので、相当な短縮です。これはスタッフの人数を増やさなくても顧客の増加に対応でき、より収益を上げられるということでもあります。

実証実験が成功して本格稼働した暁には、数値的にどの程度の効率化が可能になると思われますか。

石川さん:参考ですが、先行している税理士法人では人的コスト15パーセント減、顧問先数1.5倍を達成している事務所もあるので、そこを目指していきたいと考えています。また単純作業の負担減によって研修などの自己研鑽の時間や、大切な家族と過ごす時間を増やしていくことも目的としています。ぜひ実現させたいと思っています。

将来的には顧客にスキャナーを貸し出してスキャンしてもらう構想も

スキャナーに「fi-7180」を選んだ理由は何でしょうか。

石川さん:「STREAMED」から推奨スキャナーとしてfiシリーズを勧められたほか、DX系のイベントでもfiシリーズがよいという話を聞きました。そこでPFUともう1社に相談して評価機を貸し出してもらい、困ったときにPFUが丁寧にサポートしてくれたことと、ラインナップが充実していて上位機種もあることからfiシリーズを選びました。「fi-7180」は十分な性能ですが、将来スキャナーを増やす際に上位の機種も視野に入れて選べるのは好ましいと考えたためです。

業務用の「fi-7180」は高い給紙性能と読取速度、サイズ検出や向き補正などの自動画像処理機能を備えています。実際にお使いになったご感想をお聞かせください。

石川さん:とてもいいと思います。領収書やレシートはさまざまなサイズと形が混在していますが、1枚ずつ安定して読み取れます。たまにスピードが速すぎて小さいレシートの給紙ミスが起こることがありますが、もともとレシート専用機ではありませんし、データエントリーのスタッフが付いているのですぐに直してリカバリーできます。

大量の証憑をデータ化して「STREAMED」に連携。それだけで入力と仕訳の手間が省けます。

将来的に、パーソナルドキュメントスキャナーの「ScanSnap」を顧客に貸し出して証憑をスキャンしてもらうという構想もあるとか。

石川さん:井上所長が前々から考えていることで、証憑スキャン作業が追いつかなくなった大手事務所が顧客に「ScanSnap」を配った先行事例もあります。これは実験中の「スキャンしてデータ化」の先にある「スキャンするものを減らす」段階の話で、最終的には顧客にスキャンしていただくのが最も確実で安全だろうということです。この場合、税理士法人側でRPA(Robotic Process Automation)を導入し、顧客から送られてきたスキャンデータをRPAが「STREAMED」に流したり会計ソフトに入れたりするようになれば理想的です。

井上さん:それは最良の方法ともいえます。本来、出来上がった試算表をチェックして必要があれば直し、申告書を作成するのが税理士の業務ですから。先は長いとはいえ、ぜひそこを目指したいですね。

同じく将来の展望という点で、テレワークについてはいかがでしょう。テレワークが実現すれば税理士や税理士法人の業務にメリットをもたらすでしょうか。

井上さん:大いにもたらすと思います。たとえば、家に介護や子育てといった仕事を抱えている人も記帳代行業務などに参画できるようになることは有利の一言です。能力のある人は家でやっていただいてかまわないと僕は思っていますから。働き方改革の観点からもテレワークはとても重要で、アフターコロナでも続けていかなければなりません。当事務所でも、シンクライアント導入などによって遠からず実現させたいと考えています。

テレワーク実現のためにシンクライアント導入を提唱

井上先生は税理士法人でのテレワークの実現にシンクライアント(データを主にサーバーで管理し、シンプルな機能のみに制限した端末でアクセスする手法)の導入が不可欠と考えています。その理由をうかがいました。
「税理士法上、我々税理士はお客様から預かった証憑などの紙資料を1か所の事務所のみで保管しなければならず、外に持ち出すことが許されていません。ところが紙資料を電子データにしてサーバーに置いておけば、どこの端末からデータを見に行っても法には抵触しなくなります。つまり、資料が紙のままだと職員が在宅で記帳代行業務を行うことは不可能ですが、スキャンすれば可能になるのです。これを行うには、改竄防止やセキュリティ強化の観点からシンクライアントの導入が必須です。」井上先生の提唱するシンクライアント導入案は「IT経営カンファレンス2021 in 名古屋」(ITコーディネータ協会主催/経済産業省後援)で中部IT経営力大賞・奨励賞を受賞しています。

税理士の強みを活かしたコンサルティング業務に力を注げるようになる

記帳代行業務の効率化によって空いた時間は、顧客増加への対応のほか、どのような業務に充てることが考えられますか。

井上さん:先ほど税理士本来の業務は試算表のチェックと申告であると言いましたが、もう一つ重要な業務があると僕は考えています。それは顧客に対して経営上のアドバイスを行うコンサルティング業務です。究極的なことをいえば、僕はそこに時間を割きたいのです。コンサルティングというと中小企業診断士の仕事のように一般の方は思うかもしれませんが、税理士がコンサル業務を行うことに対する制限や障害は存在していません。むしろ親しい税理士にアドバイスを受けたいと思う経営者は少なくないはずです。

確かに、毎月の財務状況を把握している税理士の意見は聞きたいだろうと思います。

井上さん:そうでしょう。厳密にいうと税理士が見るのは過去会計であり、過去の税金を1円たりとも間違えずに申告することが本分です。一方、中小企業診断士は会計の資料に基づいて未来を見るのが仕事です。ですが経営者としては、いちばん近い第三者として内情を事細かに見ている税理士に対して「先生は帳面を見ていますから、将来のことも語っていただけますよね」という期待を持つわけです。僕としては、それに応えて差し上げたい。もちろんそれは日々の資金繰りといったことではなく、もっと大局的な、「政権が交代したら経済政策がこうなるから、この会社はこういう方向にも力を入れるべきである」といった話ですよ。大きな情勢の変化は必ず中小企業や個人にも影響しますから。

「地域の経済に貢献することを旨とする税理士法人として、顧客にアドバイスを送るコンサル業務を充実させたい」と井上さん。

石川さん:税理士は顧客の「ヒト・モノ・カネ」、つまり社内リソースを全部把握していますし、財務諸表も読めますから、それと経営者の「今これをやりたい」という思いを天秤にかけて客観的にジャッジすることができます。そこが強みだと思います。

井上さん:だからこそ僕はコンサルティングや相談という形で、お客様が会社をうまく運営して幸せになっていただく、そのお手伝いをしたいわけです。それがひいては、税理士の社会的な認知度や存在意義を向上させることにつながるのではないか。理想論であることは重々承知の上ですが、僕は本気でそう考えています。

過去の膨大な資料をスキャンし検索可能にしておくと非常に有用

証憑のスキャン以外にも「fi-7180」を活用するご予定はありますか。

石川さん:紙資料のスキャンに勧めたいと思っています。当事務所では数年前から「Microsoft 365」を導入して所内共有のペーパーレス化を推進していますが、過去の記録としての紙資料が大量に残っています。これまでは総務担当が時間のあるときに紙資料を複合機でデータ化し廃棄処理を行っていましたが、高速スキャナーの「fi-7180」を活用してまとまった量のデータ化を進めていきたいと思います。

税理士業界におけるITの先駆者として、井上さんはスキャナーによる紙のデータ化に大きな期待をかけています。

井上さん:過去の資料は意外と業務のベースになっているんですね。処理に迷う案件があれば、古い資料を探し出して読み直すことも少なくありません。紙のままだと引っ張り出すこと自体が面倒で大変ですが、スキャンしてデータをサーバーに置いておけば検索できるし、スマートフォンでも見られます。すると、たとえば税務署の窓口で何か尋ねられたときに過去の資料を確認して、その場で説明することもできます。過去の資料をツールとして使えるようになるわけですね。

石川さん:とても便利で有用ですから、遠からずスキャンしておきたいと思います。

あらた税理士法人と税理士業界がいっそうのデジタル化を果たすために、スキャナーが一助となれば幸いです。本日はありがとうございました。

(注意書き)

※著作権の対象となっている新聞、雑誌、書籍等の著作物は、個人的または家庭内、その他これらに準ずる限られた範囲内で使用することを目的とする場合など、著作権法で定められた例外を除き、権利者に無断でスキャンすることは法律で禁じられています。なお業務利用では、著作権者の許諾が必要となることがありますので、著作権法、およびご利用になる企業や団体で定める利用規則等に従って利用して頂くようお願いします。

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