G4 FAXをネットワークスキャナーに置換して“一挙三得”を実現
「業務負担の軽減」「年間300万円超のコスト削減」に加えて「セキュリティの向上」にも成功
長野市役所
長野市役所本庁ならびに支所
業種:自治体
支所数:27か所(令和4年3月現在)
課題:INSネットのG4 FAXサービス終了に伴い、時代に即したデータ通信手段への置き換えが必要になった。
解決法:本庁と支所にPFUのネットワークスキャナーを導入、スキャンしたイメージデータを送信してプリンターから出力するシステムを構築し、FAXから完全に置換。
効果:業務負担軽減・通信費など年間300万円以上のコスト削減・セキュリティ向上を同時に実現。
長野市 地域・市民生活部 市民窓口課 係長の山野井勝喜さん。
本庁の市民窓口課にて。
長野市 地域・市民生活部 市民窓口課 係長の山野井勝喜さん。
本庁の市民窓口課にて。
INSネットのG4 FAXサービス(以下、G4 FAXと表記)が2024年1月に終了するのを受けて、長野市役所ではFAXに代わる本庁-支所間のデータ通信手段としてPFUのネットワークスキャナーを導入し、スキャンした書類のイメージデータを離れた庁舎のプリンターに転送して出力するシステムを構築しました。この置換による大きな効率化と具体的な運用方法について、長野市の本庁を訪ねてうかがいました。
FAXから簡単操作のネットワークスキャナーへとスムーズに移行
地域・市民生活部 市民窓口課の山野井勝喜さんにうかがいます。G4 FAXをネットワークスキャナーに置き換えられた経緯と、スキャナーを選択された理由をお聞かせください。
山野井さん:2024年初頭にG4 FAXサービスが終了することと、それに先立ってFAX機の保守用部品の供給も止まることから、本庁と支所の間で書類をやり取りするための代替手段として、令和2年(2020年)にネットワークスキャナーを導入しました。通信するデータの量が多いことから、時代の変化に即した方法が求められていましたので、自然な流れでもあったと思います。
長野市には27の支所があるとうかがっています。本庁と全支所のFAX機を、すべてfiシリーズのネットワークスキャナー「N7100E」に置換したのでしょうか。
山野井さん:はい、すべて入れ替えました。現在は27の支所に1台ずつと、本庁では市民窓口課に3台、他の課に8台を設置しており、それらを外部から遮断されたイーサネットでつないでいます。スキャナーと対になるプリンターはもともと窓口で使っていたものをネットワークスキャナー専用のプリンターに転用し、サーバーで管理しています。
では、それまでデータ通信時に「FAX機に書類を置いてダイヤルし、相手方がFAX機で受けてFAX機で出力する」という手順だったものが、現在は「スキャナーに書類を置いてスキャンとデータ通信を行い、相手方がプリンターで受けて出力する」という手順になったということですね。
山野井さん:そうです。G4 FAXでの通信はおよそ30年にわたって利用した馴染みのあるものですが、スキャナーとプリンターによる操作が簡単なので、手作りのマニュアルを支所に配布しただけでスムーズに移行できました。
長野市役所では令和2年にG4 FAXをネットワークスキャナーに置換し多くのメリットを得ています。操作の感覚がほとんど変わらないためスムーズな移行が可能です。
ネットワークスキャナー「N7100E」(左)とプリンター。同じ組み合わせで27の支所と本庁の別の課にも置かれています。27という支所数は全国的にも多い部類に入ります。
どのようなデータを本庁-支所間で通信するのでしょうか。
山野井さん:支所から本庁に対しては、支所にお越しのお客様が記入した届出や証明書請求の書式をスキャンして送信します。本庁ではそれを受けて内容確認ののちに証明書を発行してスキャンし、支所に返信します。こうすることで本庁には発行した証明書の原本が残り、支所では受信したデータをプリンターで出力し、写しとしてお客様にお渡しするという形になります。
届出や証明書にはどのような種類がありますか。また、なぜ本庁-支所間のデータ通信が必要なのでしょうか。
山野井さん:届出や証明書には、市民窓口課で扱うものだけでも、転入・転出・転居などの住民異動届、出生・死亡・婚姻・離婚など戸籍に関する届出、戸籍謄本や戸籍抄本など多くの種類があります。これらの届出や証明書請求は、すべて本庁が内容を確認し、証明書の発行も本庁が行うという決まりがありますので、支所に来庁されたお客様に証明書をお渡しするためにはデータ通信を行う必要があります。
なお、証明書のうち住民票と印鑑証明は、各支所にMICJET住民記録システムの専用端末があるため、証明書自体を支所で出力することができます。
本庁から支所に送られた証明書のデータは利用者に渡すために紙に出力されますが、支所から本庁に送られた書式も本庁で紙に出力するのでしょうか。
山野井さん:はい。本庁で書式の内容確認を行う際、複数名で紙を回すのが最も確実で効率がよいため、すべてプリンターで出力してチェックします。
FAXによる紙のやり取りが必要だった理由もそこにあるのですね。
山野井さん:そういうことになります。PCやタブレットの画面だけで確認しようとするとチェック漏れが発生しますので、ここだけはペーパーレスにならない部分だと思います。
支所から本庁へ
支所でスキャンする書式の一例。手前が住民票・戸籍関係請求書/印鑑関係申請書、奥が住民異動届。
利用者が記入した届出や請求の書式をスキャナーにセットしたら大きなタッチパネルで本庁の課を選び、相手先プリンターで出力する用紙のボタンを押してスキャンします(用紙選択については本文で詳述)。
スキャン後、PCレスで自動的にイメージデータを本庁・市民窓口課のプリンターに転送します。
イメージデータを受信した本庁のプリンターが、支所で指定した用紙(ここではA4普通紙)で出力します。
FAXに起因する送受信時の手間が省けて時間短縮につながった
支所から送られてくる書式と、本庁に直接来庁した利用者の届出や証明書請求は、それぞれ一日に何件くらいあるのでしょうか。
山野井さん:市民窓口課の場合、支所から一日に送られてくる書式は、平均して住民票が5件、住民異動届が42件、戸籍の届出が24件といったところです。ただし住民異動届は季節による変動が大きく、毎年3月にはかなりの数になります。また本庁に来庁される方はかなり多く、一日に70~80件の届出や請求が発生します。
では、市民窓口課では平均で約150件の届出や請求を毎日処理しているのですね。来庁者分と受信分の別にかかわらず、受けた順に処理をしていくのでしょうか。
山野井さん:そうです。順番に、たとえば住民異動届ならば住所の地番が適切かどうかといったことを確かめる作業を行います。この確認に数分、場合によっては数十分を要するため、お客様の待ち時間の短縮は常に業務上の目標の一つです。その点でFAXからネットワークスキャナーへの移行には、待ち時間を短縮する効果もありました。
それはFAXに比べて通信時間が短くなったためでしょうか。
山野井さん:それもあります。スキャンすれば、ものの数秒で相手方のプリンターから出力されますので、1回の通信に40秒、50秒といった時間を要していたFAX時代とは格段の差です。
さらにもう一つ、職員の手間が大きく軽減され、無駄な時間がかからなくなったということがあります。ネットワークスキャナーの場合、本庁から支所に証明書を送るとき、タッチパネルで相手方プリンターの用紙トレイまでを指定できます。証明書を出力するときには、これはA4の改ざん防止用紙、こちらはA3の普通紙というように、それぞれに適した用紙にプリントする必要があるため、この機能は非常に便利です。FAX時代には用紙の指定が大きなネックになっていました。
本庁から支所へ
本庁で発行した証明書の原本をスキャナーにセットし、液晶画面で送信先の支所を選びます。
証明書の種類に応じて出力先プリンターの用紙を選び(ここでは「A4改ざん防止用紙」)、ボタンを押してスキャンします。
イメージデータを受信した支所のプリンターが、本庁で指定した「A4改ざん防止用紙」で出力します。
手前が本庁で普通紙に出力した証明書の原本、奥が支所のプリンターから改ざん防止用紙で出力された証明書の写し。利用者が受け取るのは写しです。
FAX時代はどのように対処していたのでしょうか。
山野井さん:FAX機のプリンターにはトレイが1段しかなく、通常はA4の普通紙を入れています。そのため本庁から証明書を返信する際、改ざん防止用紙が必要であれば支所に電話をかけて「FAXを送るので改ざん防止用紙をセットしてください」と伝えるということをしていました。ただ、支所が受信するのは一つの課からの送信だけではありませんので、場合によっては「どの課からのFAXを先に受信するかわからないけれど、改ざん防止用紙にしておこう」といった対応になり、結果として「実は他の課からの送信を普通紙で出したかったのに、改ざん防止用紙で出てしまった」というようなことも起こり得ます。送信ミスでも受信ミスでもなく、受けた順に出すだけというFAX機の機能的な限界によって煩雑な状況が生じていたということです。
かなりストレスフルな状況といえますね。
山野井さん:はい。私が支所にいた頃はトレイをいったん抜いておき、受信した電話番号がどの課のものかを確認してから「市民窓口課ならたぶん私が頼んだものだから改ざん防止用紙を入れよう」と判断してトレイを差す、ということもしていました。ただ、忙しいときには支所でも複数の職員が本庁とやり取りしていますから、勘が外れることも少なくありません。もし違う紙で出してしまった場合には、本庁に電話をして「もう一度送ってください」と頼むことになります。そういうことが日々、全支所で起こっていました。
それが現在、支所では本庁に送信したあとは返信を待つだけになったということですね。
山野井さん:そうです。その間、職員は別のお客様の対応をし、本庁からの証明書が出力されたら内容を確認して、申請されたお客様にお渡しするだけです。送信に際して電話をすることもほとんどなくなりました。煩雑な部分がそっくり省けたため、業務がスムーズに回るようになりました。
ネットワークスキャナーの導入によって、多数の届出や請求を処理する窓口業務の負担軽減が実現しました。
逆にG4 FAXからネットワークスキャナーの移行によって、できなくなったことはあるのでしょうか。
山野井さん:特に大きな問題はありません。ただネットワークスキャナーはG4 FAXよりも解像度が高いため、役所で使われている再生紙をスキャンすると、紙の地のノイズまで拾ってしまいます。そのため支所に送る証明書は再生紙ではなく、上質紙で出力しています。この紙は証明書の原本ですので、規定に基づいて数年間、保管します。一方、支所からの送信は本庁で内容を確認するためだけの副本で、きれいである必要はありませんから、すべて再生紙に出力しています。この副本は保管せず、確認後に破棄しています。
もう一つ、戸籍届出書の写しなど原本がA3の証明書は、A4に縮小コピーしたものを送って、支所側のプリンターでA3に拡大出力しています。「N7100E」はA3でも二つ折りにしてキャリアシートに挟むことでスキャンできますが、画像合成時にどうしても中央に線が入ります。これが原本証明に適さないという見解があるため、現状では縮小・拡大という方策を取っています。この場合も文字の精度には影響がありません。
通信費300万円超が削減され、通信時のセキュリティも大幅に向上
送信時間の短縮と、送信時の手間の大幅な削減のほかに得られたメリットがあればお聞かせください。
山野井さん:FAX時代と比べて通信費が本支庁合わせて年間300万円以上削減されました。FAXが通信時間に応じた従量制であるのに加えて、送受信に伴い電話も頻繁にかけていましたので、それだけコストがかかっていたということです。
「今になってみるとFAX時代の通信コストの大きさに驚きます」と山野井さん。
機器のコストに関してはいかがでしょうか。
山野井さん:ネットワークスキャナーを本庁分・支所分・予備機を合計して40台、代理店からリースで導入しましたが、同じくリースだったFAX機と比べて、イニシャルコストはかなり削減されています。ネットワークスキャナーは機器単価がFAX機に比べて低いため、リースでも1台あたりFAX機の5分の1程度で済みます。
FAX機は再リースを繰り返していたため、近年のリース料は低くなっていましたが、ランニングコストという点では保守料金のほかにコピー機と同様、出力するたびに1枚何円という使用料がカウントされていました。ネットワークスキャナーは1枚ごとの使用料が発生しませんから、必要なのは保守料金のみということになります。なおプリンターは前述の通り既存のものを転用したので、イニシャルコストは発生しておらず、トナー料金もFAX機専用品に比べて安価で済むようになっています。
年間300万円以上の通信費削減と併せて、かなりのコスト削減ですね。
山野井さん:そういうことになります。また、電話網という公共回線を使用しなくなったことで、コスト以上に重要なセキュリティ面の向上も実現できました。FAX時代もNTTのセキュリティサービスに加えて、登録した番号以外には発信できない設定にするなど手を尽くしていましたが、ネットワークスキャナーはイーサネットの区域内にしか送信できませんから、より安全です。
本庁のプリンターを窓口用と支所からの受信用に分けているのも同じ理由からです。業務が非常に多いため、万が一にも別の紙をお客様に渡してしまうことがないよう、細心の注意を払っています。やはり私どもの業務はお客様の個人情報を扱いますので、そこは最も重要視している部分です。