2025.7.29 |
ペーパーレス化の事例5選【経理・自治体・医療・製造業・学校】

ペーパーレス化は、業務効率化やコスト削減を図るうえで、重要な取り組みです。しかし、重要性は理解していても、「具体的に何から始めれば良いかわからない」と悩む方も多いでしょう。
ペーパーロジック株式会社の調査によると、2024年時点で47.7%の企業が社内でのペーパーレス化に課題を感じているとのことです(※)。こうした中で、まず参考にしたいのが他社の成功事例や、各業界で活用されているツールです。自社と同じような課題を持つ企業が、どのような手法でペーパーレス化を進めたのかを知ることで、取り組みの具体的なイメージが描けるようになるでしょう。
本記事では、経理・自治体・医療・製造業・学校など、さまざまな業種で実際にペーパーレス化を成功させた具体的な事例をご紹介します。
※出典元:ペーパーロジック株式会社
1. ペーパーレス化に成功した事例5選
ペーパーレス化は業種や企業規模を問わず、多くの企業で導入が進んでいます。
ただし、その目的や課題、実施フェーズはさまざまで、「紙からの脱却」だけでなく、すでにペーパーレス化が進んでいた業務におけるさらなる効率化や、運用の最適化といったケースもあります。
ここでは、各業界でペーパーレス化の実現・運用に成功した事例をご紹介します。
1-1. ペーパーレス化の事例【経理】
サッポロビール株式会社様では、経理部門の伝票処理をペーパーレス化することで、コストと工数削減を実現しました。
以前は、全国15か所の営業拠点で発生する大量の伝票を本社経理部に集約するため、配送・保管コストが発生しており、紙運用によって起票や承認にも工数がかかっていました。
この課題を解決するため、各拠点に業務用スキャナーを配置し、スキャンした請求書の画像データをワークフローシステムに添付する運用を開始。紙の証憑を営業拠点から本社に送る必要がなくなり、起票から承認までの一連の流れを完全にペーパーレス化しました。
結果、年間415万円のコスト削減と3,300時間もの工数を削減し、経理業務全体の生産性が向上しました。
1-2. ペーパーレス化の事例【自治体】
日高町役場様では、電子決裁とコンパクトスキャナーを活用して、日々発生する決裁の回覧・承認を円滑化しました。
電子決裁によって、飛び地への書類郵送や車で持っていくといった手間と時間を削減。
また、本庁各課や外局に合計10台のコンパクトスキャナーを分散配置することで、庁内全体で誰でも手軽にスキャンできる環境を整備。
ペーパーレス化が促進されたことで、書類の保管量が3分の1にまで減少し、書庫不足問題も解決の見込みが立ちました。
1-3. ペーパーレス化の事例【医療】
事務スタッフが行うスキャン作業の負担を軽減することに成功した、ひかり心身クリニック様の事例をご紹介します。
同クリニックでは、訪問看護などで発生する大量の書類を、1枚ずつしかスキャンできないフラットベッド型の複合機を使って処理していました。そのため、作業のたびにスタッフが長時間かかりきりになり、膨大な時間と労力がかかっていました。
この課題を解決するため、一度に複数枚の原稿を読み取れるADF(自動原稿送り装置)付きの業務用スキャナーを新たに導入。
1分間に40枚・80面の高速スキャンにより、作業時間が10分の1まで短縮されました。
1-4. ペーパーレス化の事例【製造業】
スキャニングソフトウェアの活用により、書類のデータ化にかかる時間の削減に成功した、三井金属鉱業株式会社様の事例をご紹介します。
同社は、過去の製造記録を現場で活用するため、複合機を使ってスキャンを開始。
しかし、スキャンした後、検索性を考慮して製品コードや受注No.などをファイル名に手入力していたため、手間と時間がかかっていました。
この問題を解決するため、業務用スキャナーを導入。付属するソフトウェアのOCR機能を活用して、書類の定位置に印字されたテキスト情報をファイル名に自動で付与する設定にしました。
ファイル名の手入力作業が不要になったことで、書類のデータ化に要する時間を75%削減しました。
1-5. ペーパーレス化の事例【学校】
金沢市立清泉中学校様では、スキャナーとデジタル採点システムを活用し、テストの採点業務を効率化しています。
従来は、採点や点数集計をすべて手作業で行っていたため、教員の負担が大きくなっていました。
この課題に対し、業務用スキャナーで答案用紙を電子化し、デジタル採点システムを活用して、複数人分の解答を一括で採点・自動で点数集計する運用を開始。
結果、これまで5クラス分の採点に10時間かかっていたところを5時間まで短縮し、テストの翌日には生徒へ答案を返却できるようになりました。
2. ペーパーレス化するメリット
ペーパーレス化は、単に紙をなくすだけでなく、企業に多くのメリットをもたらします。
ここでは、コスト削減から働き方改革まで、具体的なメリットを詳しく見ていきましょう。
- 長期的に見てコスト削減が可能になる
- 業務を効率化できる
- セキュリティを強化できる
- データを活用しやすい
- テレワークで業務が進められる
- 企業のイメージアップにつながる
2-1. 長期的に見てコスト削減が可能になる
ペーパーレス化にはツール導入などにより初期投資が必要ですが、長期的に見ると以下のようなコスト削減効果が期待できます。
- 印刷(紙・インク)や郵送などの経費が削減できる
- 書類を保管するスペースが不要になるため、オフィス賃料や管理費を節約できる
前述のとおり、サッポロビール株式会社様では伝票処理のペーパーレス化を推進した結果、年間で約415万円の書類管理コスト削減に成功しました。
ペーパーレス化は直接的な経費削減に加えて、物理的なスペースの無駄を省くことで、企業の経営効率向上にも貢献します。

2-2. 業務を効率化できる
例えば、伝票処理や決裁業務であれば、申請・回覧・承認といった一連の業務プロセスがすべてオンライン上で完結するため、業務の効率化につながります。
従来は、手書きでの記入や押印、承認者を探して書類を手渡すなど、多くの手間が発生していました。また、出張や外出中の承認者の帰りを待たなければならない場面も少なくありませんでした。
これらの課題も、電子化によって待ち時間や手作業が不要になり、スムーズな業務運用が可能になります。
2-3. セキュリティを強化できる
一般的に紙の書類は、紛失や盗難に加えて、火災や水害といった災害によって消失するリスクがあります。しかし、ペーパーレス化を進めることで、以下のように物理的な書類管理にともなうリスクを低減できます。
- データで管理するため、復元しやすい
- データへのアクセス権限を細かく設定できるため、情報漏洩を防止
- 電子署名やタイムスタンプにより、なりすましや不正な改ざんを防止
2-4. データを活用しやすい
情報が紙から電子データに置き換わることで、必要な情報を迅速に検索・参照できるようになり、業務への活用が格段にしやすくなります。
たとえば三井金属鉱業株式会社様では、製品を成形する際に、過去に同様の製品をどのような原料配合で、どのような調整を加えて作ったのかを振り返るケースが頻繁にあります。過去の製造記録書類を電子化し、製造現場でタブレットから参照できるようにしたことで、作業効率の大幅な向上につながっています。

2-5. テレワークで業務が進められる
紙の運用では、「書類の受け取りや承認のためだけに出社が必要」といった状況が起きやすいです。しかし、書類を電子化し、ワークフローシステムや電子契約システムを活用することで、場所にとらわれずアクセス・処理が可能になります。
実際、サッポロビール株式会社様では、テレワーク下でも起票や承認業務を行える体制を整えており、2022年4月中旬時点で出社率は30~50%と、ペーパーレス化の効果が具体的な数値にも表れています。
感染症の拡大や自然災害などで出社が難しくなった場合でも、ペーパーレス化により在宅での業務継続が可能になります。

2-6. 企業のイメージアップにつながる
ペーパーレス化への取り組みは、環境に配慮した企業としての姿勢を社外に示せるため、企業イメージの向上につながります。
紙の使用量を削減することは、森林資源の保護・紙の製造・輸送・廃棄にともなうCO2排出量の削減につながります。これは、近年重要視されているSDGsやCSR活動の一環として、社会から高く評価されている項目です。
企業のウェブサイトや統合報告書などで、ペーパーレス化による環境貢献度をアピールすることで、顧客からの信頼も高まるでしょう。
3. ペーパーレス化を導入する3つのステップ
ここでは、ペーパーレス化をスムーズに導入するためのステップをご紹介します。
- 紙で運用している業務をリスト化する
- ペーパーレス化できる業務をピックアップする
- 業務に適しているツールを導入する
3-1. 紙で運用している業務をリスト化する
ペーパーレス化の第一歩は、まず社内に存在する「紙の業務」をすべて洗い出し、現状を正確に把握することです。
現在、紙で運用されている書類を部署ごとにリストアップしましょう。その際、それぞれの書類にかかっている以下のような工数やコストも可能な限り可視化します。
- 作成頻度
- 関わる人数
- 作業時間
- 管理コスト
業務の棚卸しをおこなうことで、どの業務を電子化すると最も効果が大きいのかが明確になり、ペーパーレス化の優先順位を客観的に判断できます。
3-2. ペーパーレス化できる業務をピックアップする
続いて、リストアップした業務の中から、ペーパーレス化を進める対象を絞り込みます。
まずは社内回覧や申請書など、影響範囲が狭く、電子化しやすい業務から着手するのがおすすめです。
また、選定プロセスでは、必ず現場担当者の意見をヒアリングしましょう。現場の協力を得ながら、効果が高く実現可能な業務から優先的に選択することが重要です。
3-3. 業務に適しているツールを導入する
ペーパーレス化する業務が決まったら、その課題を解決するのに最適なツールを選定し、導入します。ピックアップした業務の特性や社内のITスキルレベルを考慮して、複数のツールを比較検討することが重要です。
たとえば、以下のように業務内容と適したツールの組み合わせを検討すると良いでしょう。
業務内容 | 適したシステムの例 |
---|---|
稟議書・経費精算の申請承認 | ワークフローシステム |
契約の締結 | 電子契約サービス |
書類の電子化 | 業務用スキャナー、OCR |
また、いきなり全社展開するのではなく、まずは一部の部署で試験導入をおこないましょう。実際の運用を通じて使い勝手や課題を洗い出し、段階的に改善を重ねながら全体展開を進めるのが成功のポイントです。
4. ペーパーレス化を成功させるポイント
ペーパーレス化を成功に導くために、重要なポイントがいくつかあります。ポイントを意識することで、導入効果を最大化し、定着をスムーズに進められるでしょう。
ここでは、特に押さえておきたい3つのポイントを解説します。
- スキャンは複合機よりも業務用スキャナーが効率的
- ペーパーレス化の定量効果を試算する
- 導入前に運用ルールを決めておく
4-1. スキャンは複合機よりも業務用スキャナーが効率的

書類をスキャンする際には、複合機よりも業務用スキャナーを選ぶのがおすすめです。1章の事例でも紹介しましたが、複合機でペーパーレス化を始めたものの業務効率が悪く、スキャナーをあとから導入したという事例は少なくありません。
業務用スキャナーはスキャン機能に特化しているため、以下の点で複合機よりも優れています。
- 高速スキャンで、短時間でデータ化できる
- 薄紙も問題なく読み取ることができ、紙詰まりが少ないため、作業が止まらない
-
書類の定位置に印字された文字情報のOCRなら、業務用スキャナーに付属しているソフトウェアでも十分対応できる(※)
※:有償オプションなら手書き文字のOCRができる製品もある
快適なスキャン環境は、ペーパーレス化を円滑に進めるための重要な要素です。作業時間の短縮など、業務全体の効率化を図るためにも、スキャン作業には業務用スキャナーの導入を検討するとよいでしょう。
複合機と業務用スキャナーの違いは以下の資料で詳しく解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
4-2. 導入の説得材料に!ペーパーレス化の定量効果を試算する
ペーパーレス化を社内で推進する際は、具体的な数値や効果を試算しましょう。ペーパーレス化の導入には、ツールの購入費用や業務フローの変更がともなうため、上層部や関連部署を説得するには具体的な効果を示す情報が必要です
「紙をなくす」というあいまいな目的ではなく、「請求書処理にかかる時間を月20時間削減する」「書類保管コストを年間50万円削減する」といった、具体的な目標を数値で設定しましょう。
効果を定量的に示すことで、ペーパーレス化の推進について上層部や周囲からの納得・承認を得やすくなります。
4-3. 導入前に運用ルールを決めておく
ツール導入後の混乱を防ぎ、全従業員がスムーズに利用できるようにするため、事前に詳細な運用ルールを定めておきましょう。
例えば、以下のような項目になります。
- ファイル命名規則
- フォルダ構成と保管場所
- アクセス権限
- 承認フロー
- 紙の原本の保管・廃棄基準
詳細なルール作りは、情報管理体制の強化と業務効率化の両立を可能にし、ペーパーレス化の成果を高める土台になります。
5. まとめ
本記事では、経理・自治体・医療・製造業・学校など、さまざまな業種でペーパーレス化を実現した事例と、成功のポイントなどを解説しました。
ペーパーレス化は、業務効率の向上やコスト削減、テレワークへの対応などのメリットをもたらします。
ぜひ、今回ご紹介した事例やポイントを参考に、自社の課題解決につながるペーパーレス化の第一歩を踏み出してみてください。