ScanSnapのOCR機能で「点訳」を大幅に効率化
出版物や書類などの文章を点字に翻訳する「点訳」の分野で、ScanSnapが新しい可能性を開きつつあります。OCR機能によって「検索可能なPDF」を生成してテキストデータを抽出することにより、点訳に要する時間が大幅に短縮されるのです。点訳の自動化に取り組む大阪府堺市の「堺市点訳ボランティアひかりの会」を訪ね、具体的な運用方法について伺いました。
目次
夢の「入力しない点訳」に向けての大きな一歩
OCR機能で「検索可能なPDF」を生成、テキストから一気に点字データへ
大阪府堺市にある「堺市立健康福祉プラザ」の一室。オーバーヘッドスキャナー「ScanSnap SV600」で本のスキャンを行っているのは、「堺市点訳ボランティアひかりの会」で点訳の自動化を推進するグループ、「夢点(ゆめてん)」のメンバーです。夢点では、点訳したい文章を手動で入力するかわりに、「SV600」でスキャンして「検索可能なPDF」を生成し、抽出したテキストデータを専用ソフトで一気に点字データに変換する――という手法を取り入れ、運用を開始しています。この日は最も効率のよい手順をメンバー間で確認・共有するために皆さんが集まりました。
メンバーの一人で「ひかりの会」会長でもある原田稔さんは、「『SV600』の運用で点訳の効率が大幅にアップする」と言います。一冊の本の点訳には10か月ほどかかるところ、入力の省略によって約2か月が短縮されるといい、これは画期的な効率化といえるそうです。その意義について、会の歴史と併せて伺いましょう。
一点ずつの打ち込みから始まった点訳という仕事
「ひかりの会」の前身は1966年に誕生した「点訳奉仕グループ」です。当時の点訳は、点字盤で一点ずつ打ち込んでいくもの。紙自体に裏から直接打ち込む必要があるため、一文字でも間違えると最初からやり直しになるという、文字どおり気の遠くなるような作業でした。以来、グループは堺市立点字図書館(現在の堺市立健康福祉プラザ内「視覚・聴覚障害者センター」)を活動拠点に、点訳とボランティアの養成に力を注ぎます。
その間、80年代から90年代にかけてパソコンによる点字入力(パソコン点訳)用のソフトが登場し、広まっていきます。それに伴い、1996年にグループは名称を現在の「ひかりの会」に改め、手打ちからパソコン点訳へ移行しました。
現在、「ひかりの会」では「点字編集システム」(テクノツール株式会社)を基本的なソフトとして用い、「6点入力」によって点字を一文字ずつ入力し編集する方法を点訳の基本としながら、手打ちで入力した一般的なテキストを点字データに変換する方法も取り入れて点訳の自動化を推進しています。この点訳データは幾度もの校正を経たのちに点字プリンタで出力され、点字図書となります。
「ScanSnap SV600」で大切な本を切らずにスキャン
点訳の一連の流れの中で、作業量の最も多い工程は入力です。その省略を実現するものとして夢点が選んだのは、非接触で読み取るオーバーヘッドスキャナー「ScanSnap SV600」でした。 「『SV600』を選んだのは、大切な本や製本された書類を断裁なしでスキャンできるからです。特に『プライベート依頼』という、個人の本を預かって点訳する仕事にはうってつけです」(原田さん)
具体的な手順としては、まずファイル形式を「検索可能なPDF」に設定して原稿をスキャン。SV600の「ページめくり検出機能」を使えば分厚い本もめくっていくだけで次々と読み取れ、スキャンの時間も短縮できます。取り込みが終わったらPDFを開いてテキストファイルで保存。それを自動点訳ソフト「EXTRA」(有限会社エクストラ)で開き、カナ文字のみで文節に空白の入った「分かち書き」のテキストに変換します。これで漢字の存在しない点字の文章に変換する準備が整うので、「EXTRA」で点字データ(BESファイル)に一括変換。そのデータを「点字編集システム」で開いて編集、校正を行います。
もちろんこれは単純化した図式であり、実際にはスキャンしたテキストの校正や分かち書きの校正など、ところどころに重要な工程が入りますが、それでも「手で入力することに比べれば、はるかに楽」と夢点メンバーは口をそろえます。
ボランティアの「心意気」が点訳事業を支える
校正に次ぐ校正で確かな点訳を目指す
「点字編集システム」上の点字データには、徹底した校正が施されます。出版物などの文化遺産を視覚障害者の方々が利用できるようにするにあたり、記載内容に誤りがあってはなりません。そのため、漢字の読み方など細部に至るまで確認し、修正を加えていくのが点訳の常です。校正と修正を繰り返し、最終的に視覚障害を持つ職員との対面校正(読み合わせ)を経て点訳を完成させるまでには、長い時間を要します。
それと同時に、視覚障害者のニーズに応えるため、できるだけ速いペースで点訳図書を増やしていく必要もあります。現在「ひかりの会」では計87名の会員がボランティアの立場で点訳に携わっており、日々作業に勤しんでいます。そうした仕事だからこそ、ScanSnapの活用による作業期間の短縮には非常に大きな意義があるのです。
それにしても、点訳という一大事業に携わる皆さんの努力には頭が下がります。そのモチベーションはどこにあるのでしょうか。
「最初の感動」が視覚障害者バックアップの原動力に
会員のお一人は、仲のよい友人が事故で視覚を失い、その不便さを我がことのように感じたことが点訳に携わるきっかけだったと話してくれました。また、純粋に興味を抱いたことから点字の勉強を始めたという方もいました。このように点訳ボランティアになった経緯はさまざまですが、「初めて点字を打ったとき、すごく感動した」という経験は皆さんに共通しているようです。「原動力というなら、それしかないですよ。その感動があるからこそ、ずっと視覚障害者をバックアップするという心意気でやってこられています」と原田さん。
現在、「ひかりの会」で完成させた点訳は、点字図書情報の全国的なネットワークである「サピエ図書館」を介して各地の読者に利用されています。利用状況がわかるので、自分が訳した本が読まれると「とてもうれしい」と会員の皆さんは言います。ScanSnapが点訳作業をサポートすることで、会員の方々が「読まれる喜び」を味わう機会がいっそう増えるとともに、視覚障害者の方々がより大きな利便性を享受できるようにと願わずにはいられません。
まとめ
点訳ではIT機器を活用した自動化が強く求められています。ScanSnapの基本機能の一つである「検索可能なPDF」の生成は、まさに点訳ボランティアのニーズに応えるものでした。自動化が難しいとされる作業も、工夫ひとつで解決の糸口が見つかることが多々あります。あなたの身の回りの「困りごと」も、ScanSnapで解決できるかもしれません。
ScanSnap SV600
厚みのある本や雑誌、新聞などの電子化に最適な非接触スキャナー。原稿を均一に読み取るVIテクノロジーやブック補正機能により、A3サイズまでしっかりクリアに読み取れます。 |
---|
この記事を書いた人
おすすめ記事
OCRの有無がポイント。エキスパートがたどりついたたったふたつのプロファイル 成蹊大学法学部教授 塩澤一洋先生
法律を研究する大学教授ながら、ScanSnapのアンバサダーもつとめる塩澤一洋さん。最新モデルのScanSnap iX1500は多機能化しているが、それでもシンプルに活用していくのがポイントだと塩澤さ
歴史的な文化や物語を後世に伝える、デジタルライブラリーにScanSnapが活躍
オーストラリア・カルア地方に根付く文化や物語の保存に、ScanSnapが活躍しています。 カルアに住む人々の一定数はオーストラリアの先住民族を先祖に持っているのですが、Bawurra財団がその地域にあ
市制30周年の未来に向けて、かほく市史編さん事業がスタート スキャナーの活用で古文書のデジタル化を効率化!
時代が経つにつれて徐々に遠ざかっていく古い歴史。生まれ育った市の歴史を知りたい、そして後世に残したいという想いをもっている方も多いのではないでしょうか。 石川県かほく市史編さん室では、既存の文化財や資
AI × 図書館ハッカソン@長岡 ScanSnapを活用し蔵書データから「知能」を創る、"世界初"のAIハッカソン
もし、図書館の蔵書をスキャンして生成AIのデータセットを作ったら、どのように活用できるだろう? そんなアイデアを実現するユニークな試みが新潟県長岡市で開催されました。 長岡市役所が企画した "世界初"