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カレー沢薫のなりゆきデジタル化ぐらし〜Vol. 7〜

カレー沢薫のなりゆきデジタル化ぐらし〜Vol. 7〜

目次

    サイトがリニューアルということで、この連載も心機一転、今回のテーマは「在宅ワークでの必需品」だ。

    当初はクライアントの自社製品である「ScanSnap」のPR記事という話だったのだが、まさかこんなに早くScanSnapの話をしなくて良くなるとは思わなかった。 

    確かに、私の周辺にある紙類は99%がゴミなのである。
    このまま紙類のスキャン縛りで話をさせたら、ScanSnapにより謎の食べこぼし跡まで鮮明にスキャンされたゴミ画像が次々にアップされて逆にイメージダウンにすらなりかねない。さすが優良企業は損切が早い、だが私に書かせるという根本を断たなかったのは次回の課題である。

    実際は今後もScanSnapネタは出るのだが、スキャン縛りにすると早々に書くことがなくなるので、今回のような横道回もある、ということだ。

    編集部注)カレー沢先生にスキャンしていただきたい書類はまだまだございますので先生も読者の皆様もご安心ください。

    というわけで「在宅ワークでの必需品」だが、まずは「パソコン」である。
    当然だがこれがないと仕事が成り立たない、だが逆をいえばスキャンすべき紙があまり発生せず、ScanSnapの有用性をイマイチアピールできない元凶もこいつと言える。

    私は全ての原稿をパソコンによりデジタル作成しているのだ。

    漫画家の中には、デジタル作画でも紙に出力して仕上がりを確認する作家もいるが、私は画面上のみで確認して提出している。
    よって、最近はWEB連載も多いため「単行本化するまで一切紙に印刷されない」というのも珍しくないのだが、今のご時世「永遠に単行本化の話がでない」ことも珍しくはなく、辛うじて1巻は紙で出たが、諸事情により続刊は「電子のみ」という、作者どころか紙で揃えようとした読者まで巻き添えで不幸になる現象も増えている。 

    ともかく原稿制作段階で紙を使うことがないので、スキャンすべき紙もあまり発生しないのだが、パソコンがなければ、私の周辺はアナログ原稿だらけとなり、スキャナーも大いに活躍したか、というとそうでもない。 
    パソコンがなければ、おそらく「原稿」が発生することはないからだ。そもそも私が漫画家やライターとしてデビューできたのは、運よくパソコンで原稿が作成できる時代だったからだ。

    パソコンを使うことで、画力や文章力が大きく底上げされる、というわけではない。現在でも漫画は、ツールではなく作家自身の技量で差がつく世界であり、上手い作家は割り箸で描いても上手い。 

    逆に私はどんなに高級なパソコンやソフトを使っても下手なことには変わりないが、パソコンのおかげで、解読可能な原稿を完成させることができるようになったのだ。 

    昔の漫画原稿は主にインクで描かれており、今もそれで描き続けている作家もいる。つけペンの先に液状のインクをつけて描くため、インクが原稿に落ちたり、乾く前に擦ってしまったりと、上手い下手以前に、原稿を汚さず描くのが難しいのだ。 

    私は作画以前に「枠線」の段階で、原稿を「作者が執筆中に何者かに襲われたとしか思えない、事件性の高い状態」 にしてしまうため、アナログ原稿を完成させたことすらないのだ。私の漫画は、余白に謎の毛が漂っていたり 、デジタルでも汚れが多いほうだが、アナログで描かせたら、汚れの間に漫画が描いてある状態になると思う。
    つけペンが苦手な作家の中にはミリペンなど、インクが垂れたり擦れたりしないマジック類で描く人もいる。

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    カレー沢「これは夫のパソコン 私のは見せられない」

    しかし、紙には「劣化」という弱点もある。
    私は指先が不器用なだけでなく、注意力散漫なので描き損じが非常に多く、何回も消しゴムをかけていたら紙が毛羽だって描けなくなるし、最終的に穴が開く。 

    また、 えんぴつなら消しゴムで消せるが、インクだと修正液を使うことになり、どんどん修正液の厚みが増して、飛び出す3D原稿になってくる。
    修正液をカッターで削るという方法もあるが、おそらくそこでも原稿に穴をあけると思う。 

    その点データというのは、描き損じた部分を一瞬で消せる上に、どれだけ消してもデータに穴が空くこともなく、液晶タブレット画面が破壊されたことも今のところはない。
    つまりパソコンがなければ、私の周囲は従来の紙ゴミに原稿になり損ねたゴミが加わり1099%ぐらいゴミになっていた、ということだ。 

    文章原稿に関しても、手書きだったらやはり原稿用紙に穴が空くし、当然「解読不能」という問題が出てくる。

    それもパソコンを使えば、どれだけ字が汚い人間がタイプしても読める字が出てくるのだ。
    「全て創英角ポップ体にしてくる」など、絵同様、使用者のセンスが出てしまう部分もあるが、どれだけ書く力がない人間でも、原稿の体を成したものを完成できるようになったという意味で、パソコンは在宅ワーク以前に私の人生を変えた神ツールと言っていい。 

    しかし、パソコンは神であると同時に悪魔でもある。
    ツール以前に、原稿を描くために最も必要なものがある。それが「原稿を描く時間」だ。
    これを、パソコン、正確にはパソコンに繋がっているインターネットが奪っていくのである。

    原稿だけではなく、高校生の時からパソコンには、勉強をする時間、人間とコミュニケーションを取る時間など、ありとあらゆる時間を奪われ続けている。

    そして現在では時間強奪ツールとしてパソコンの完全上位互換であるスマホに時間を奪われ続けている。
    しかし、同じツールを使っても、作者の力量で出来上がる物に差が出るように、パソコンを神にするか悪魔にするかは使う人間次第である。
    そして私はパソコンを使ってサタンを召喚することに成功したのだ。

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    ScanSnap_iX1600

    ScanSnap iX1600

    毎分40枚・80面の両面高速読み取りを実現し、簡単操作のタッチパネルを搭載。Wi-Fiの5GHzに対応し、原稿サイズ、色や両面・片面を自動的に判別。 驚くほど簡単、スピーディーに電子化します。

    この記事を書いた人

    漫画家・コラムニスト カレー沢薫

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    元気な漫画家、まだまだ成長中。文章をかきます。

    karezawakaoru