ScanSnap

カレー沢薫のなりゆきデジタル化ぐらし〜Vol. 8〜

カレー沢薫のなりゆきデジタル化ぐらしVol.8

目次

    ScanSnapは極めて高性能なスキャンなのだが、それをレビューする私の生活にあまりにも「紙」が存在しないため、まずスキャンするものに窮するという事態になっている。

    このままだと机に垂れていた謎の液体を拭きとったキッチンペーパーなどをスキャンせざるを得なくなる。

    ScanSnapはやり方によってはキッチンペーパーでもスキャンしてくれるだろうし、高画質なので謎の液体が何なのかプロファイリングする一助になるだろうが、それを見た人が「買い」と思うかは謎だ。

    最新ドライヤーのモニターにスキンヘッダーを選び「毛根の中にいる奴まで速乾です」と言わせているような状況だが、業界外からすれば、漫画家がそんなに紙を扱わないとは思わなかったのかもしれない。

    私だって、音楽界の人に「曲は全部PCで作っていて楽器は使わない」と言われたら、驚きながらもそんなものかと思うし、料理界の人に「最近の料理人は包丁も鍋も使わない全部3Dプリンター」と言われたら、そんなものかと一瞬納得しかけたのち、バカにするなと中華鍋で殴りかかる。

    しかし、デジタル専門漫画家とて請求書ぐらい毎月発生すると思うかもしれない。

    だがまず「仕事がないから請求書も発生しない」ということもあるし、基本的に漫画業界は請求書不要なのだ。

    大体原稿を納品したら請求書不要で原稿料が振り込まれるシステムなのである。

    私も一般企業で経理事務をやったことがあるが、請求書不要はありえなかった。

    どうしてこんなシステムがまかり通るようになったのか謎だが、漫画家というのは「事務処理能力が絶望的に欠落した人間が最後に流れ着く孤島」の呼び声高い職業である。そんな人間相手に毎月、下手をすれば毎週請求書を出させていたら、経理の命に関わるという判断でこうなっているのかもしれない。

    ちなみにこの連載は請求書はもちろん見積書の発行も必要であり、私にそれを出させるのに平均4回の催促が必要なため、担当は身を持って「漫画業界に請求書導入は無理」と確信しているだろう。

    よって、最近の漫画家は、作業的にも事務的にも紙と関わる機会が減ってきているのだが、さすがの漫画家も「確定申告不要」の域には達しておらず、人気漫画家が、最近多額の追納と前科を食らうという事件も起きている。

    私も当然確定申告からは逃れられず、その際ScanSnapが面目躍如の大活躍だったので、日頃から書類を扱う適所に置かれれば重宝間違いないだろう、やはり人も機材も適材適所だ。

    ただ、その際調子に乗って「通帳」をスキャンしようとしたら詰まった、という話を書いたかと思う。

    それを「通帳がスキャンできたらもっと便利だったのに惜しかったですね」という煽りと受け取ったのか、メーカーから「できるよ」と物言いがついた。

     

    そんなわけで今回は通帳をスキャンに再挑戦だが、さすがの私も己の通帳をスキャンして公開する体当たりレビューは不可能である。

    1ページ丸々「ウマムスメプリティダービー 10,000」の引き落としが並んでいる個人情報が一切漏洩してない口座もあるにはあるが、残念ながらネットバンクで通帳がない。

    だがそこまで見越してメーカー側は今回使用する「ScanSnap iX1300」と共に、テスト用の「ダミー通帳」を送って来た。

    おそらく「通帳とかスキャンできたらもっと便利なのに」というユーザーに対し、すぐさま「できるんだなこれが」と示すために予め作ってあるのだろう。

     

    ScanSnap iX1300は上部に普通の書類をスキャンする差込口があるが、下部に手差し差込口もあり、こちらで通帳など、不定形や厚みがあるもののスキャンが可能である。

    通帳を差し込んだ時、かなり斜めになっていたが、サイズや角度の補正は自動でやってくれるし両面スキャンも可能だ。

    さすがに通帳を自動でめくってスキャンしてくれるわけではないが、スキャンスピードはかなり速く、税務署から何らかの連絡があり、急遽7年分の通帳スキャンが必要になったなどの、イレギュラーが起こらなければ十分だろう。

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    カレー沢「着実に貯金を増やす田中さんに焦りを隠せない」

    これで次の確定申告は勝ったも同然だ、しかし同時に、このダミー通帳の持ち主である「田中かおり」さんに惨敗を喫することになる。

    このような「例のために出てくる人」というのは、どこにでもいそうな平凡な人が起用されるはずなのだが、よく考えれば「山田太郎」など、名前の時点でかなり非凡だ。

    この田中かおりさんもまず口座の残高が「1,100万円」以上という非凡女性である、それともこれが日本人の平均通帳残高なのか、どちらにしても焦燥を感じる内容である。

     

    さらにこの田中さん、何者なのか全く不明である。

    家賃や水道光熱費が引き落とされているので、おそらく社会人だが、給与をもらっているわけではなさそうだ。

    その代わり月末に、HIJK社から合計450万円もの入金がある、同時に400万円もの支払いがあるのだが、トータルで毎月50万円の黒字だ。

    通帳が個人なので、おそらくフリーランスであり、漫画家の可能性もゼロではない、しかし動いている金の規模がでかすぎる。

    もしかしたらこのダミー通帳は数種類用意されており、使用者がフリーランスの場合はフリーランスの「田中かおり」会社員だった時には会社員の「松戸真楠(マツドマックス)」の通帳を渡しているのかもしれない。

    確かに使用者と属性が近い方が、リアルな使用感を得られるような気もするが、それで劣等感を抱かせてしまったらスキャンの印象も悪くなってしまいかねないし「このサンプルを作った奴は一般人の口座をわかってない」など、庶民エアプを疑われる恐れがある。

    少なくとも、存在しない人物の収支と生活が気になりすぎてスキャンのことが頭に入らなくなる奴が一人いるのは確かだ。

     

    ScanSnapの性能に対しての文句はないが、この通帳サンプルの内容については再検討の余地があると思う。

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    ScanSnap_iX1300

    ScanSnap iX1300

    毎分30枚(A4カラー/300dpi)の高速読み取りが可能な「Uターンスキャン」と、一般的な紙からA3までの大きな書類、厚手の原稿等の読み取りも可能な「リターンスキャン」2つの読み取り方法を備え、仕事環境や家庭に発生する多様な書類をすばやく電子化します。

    この記事を書いた人

    漫画家・コラムニスト カレー沢薫

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    元気な漫画家、まだまだ成長中。文章をかきます。

    karezawakaoru