ペーパーレス化を進める方法|メリットと事例、電子帳簿等保存制度(2022年1月施行)の活用
2022年1月から施行された改正電子帳簿保存法により、電子データで受け取った帳簿書類は、電子データのまま保管することが義務づけられました。これまで電子データで受け取った帳簿書類を紙に印刷して保管していた人も、電子データでの保管が必須になります。
この機会を「デジタル化を進めるチャンス」ととらえ、段階的にペーパーレス化を進めていくことをおすすめします。
今回は、ペーパーレス化によるメリットや課題を整理するとともに、ペーパーレス化を進めるための方法と、活用しやすくなった電子帳簿等保存制度について紹介します。
目次
1. ペーパーレスとは?メリットと導入の課題
ペーパーレスとは、紙の利用を減らし、書類を電子データで管理することです。
オフィスのペーパーレス化を進めると、ネットワークを利用できる環境があれば、場所や時間を問わず資料にアクセスできるようになります。
では、どのようなメリットがあるのかを具体的に見ていきましょう。
1-1. ペーパーレス化のメリットとは?
情報を共有しやすくなる
手にした当人しか内容を確認できない紙文書との大きな違いは、情報を素早く簡単に共有できることです。
たとえば関係者への社内回覧、取引先への郵送など、紙文書を手元に届けるには手間も時間もかかります。
共有すべき紙文書をデータ化すると、ネットワークを介して瞬時に複数の関係者へ送ったり、皆で同時にアクセスしたりできるようになります。
作業効率が向上する
文書をデータ化して保管すると、作業効率の向上も期待できます。
たとえば過去の情報を参照したいとき、紙文書だとキャビネットや書庫のファイルから該当の資料を探す必要がありますが、データ化しておけば、スマホやパソコンからのキーワード検索で、必要な資料を簡単に探し出せます。
情報セキュリティが向上する
データ化した資料には、そのファイルにパスワードを付けたり、アクセス権限を設定したりできます。情報にアクセスできる人に制限をかけることで、セキュリティの向上につながります。
コストを削減できる
紙文書は、用紙代、印刷代、印紙代、廃棄代などがかかります。紙文書を削減すると、これらの費用を削減できます。
また、紙文書を保管するには、保管スペースが必要になります。文書の保管にキャビネットやバインダーなどを使用している場合は、これらも不要になります。
そうしてできたスペースにデスクを置いて、ちょっとしたミーティングスペースなどに使うのもいいですね。
テレワークを推進しやすくなる
ネットワークにつながる環境があれば、会社以外からも資料にアクセスできるため、勤務制度にテレワークを採り入れやすくなります。
通勤時間や移動時間を削減でき、働き方や生活にゆとりを生み出すテレワークは、社員の離職防止にもつながります。
1-2. ペーパーレス化の課題
社内での文書管理ルールが必要になる
データ化する基準やファイル名の付け方が人によって違っていると、せっかくペーパーレス化を進めても、その後の継続した運用がしにくくなります。
これを防ぐには、新たに社内での文書管理の基本ルールを作り、データ化・廃棄基準のガイドラインを定める必要があります。
また、電子帳簿等保存制度を利用する場合は、それらに対応したルールも必要になってきます。
電子帳簿保存法は、2021年度の税制改正により、さらにペーパーレス化を進めやすくするために手続きを簡素化する見直しが行われました。「4. 活用しやすくなった電子帳簿等保存制度」で詳しく説明しています。
ITリテラシーが必要になる
データ化した資料を閲覧するには、パソコンやタブレットを使うことになります。不慣れな人はこれらを嫌がるかもしれません。
そのような人たちへ、ログインの仕方やパスワードの設定の仕方など、必要最低限の操作について、手順書を作成したり、研修を行ったりする必要があります。
システム障害の影響を受ける
データ化した資料はネットワーク上で管理することになります。サーバーや端末に障害が発生した場合、データにアクセスできないことや、最悪の場合はデータが消失することもあります。
このような場合に備えて、データをこまめにバックアップすることはペーパーレス化を進めるにあたってとても重要です。
導入コストがかかる
これまでパソコンやファイルサーバーを導入しておらず、ネットワーク環境も未整備である場合、ICT機器の購入や情報セキュリティ対策の費用が必要になります。
このような初期費用に対して、たとえば書類の保管スペース削減や、業務の効率化といったペーパーレス化の効果を実感できるまでには、ある程度の期間をみておくことが大切です。
2. 紙文書を92%削減!快適で働きやすい環境を実現したペーパーレス化の事例
リコーのグループ会社であるPFUもペーパーレス化に成功した会社のひとつです。2014年の横浜オフィス移転を機に本格的なペーパーレス化に取り組んだ結果、「移転前のオフィスに保管されていた紙文書の92%を削減できた」といいます。
具体的な取り組みは、移転の3か月前から本格的にスタート。各部署から選抜された委員が中心となって、次のように活動を推進しました。
①文書管理の基本ルールを作り、電子化・廃棄基準のガイドラインを定める。
②ガイドラインに則った管理を行うシステムを構築・稼働し、全社へ普及する体制作りを進める。
各部署で紙文書の積極的なデータ化を推進するとともに、不要な紙文書の徹底廃棄によるスリム化に取り組んだ結果、文書の検索・参照などの業務効率は大幅にアップ。さらに社員の行動にも変化が生じました。
紙ベースのワークスタイルから脱却したことで、ペーパーレス会議が当たりまえになり、場所や時間にとらわれない、自由で創造的な働き方を実現することができました。
3. ペーパーレス化を進める方法
改正電子帳簿保存法により、電子データで受け取った帳簿書類は、電子データのまま保管することが義務づけられました。このタイミングをデジタル化への機会ととらえ、段階的にペーパーレス化を進めましょう。
まずは社内ルールを整備します。次にルールに従って紙資料をデータ化するとともに、現在の運用を紙からデジタルへと順次切り替えていきます。
ここでは一般的なペーパーレス化を進めるうえで重要なポイントをご紹介します。国税関係帳簿書類に関する書類や帳簿のデータ化については「4. 活用しやすくなった電子帳簿等保存制度」をあわせてお読みください。
3-1. 電子データの保管ルール、管理方法を整備する
少なくとも以下の観点で明確なルールを決めておく必要があります。
フォルダ構成
ペーパーレス化を進めていく中で、保存しなければならない電子データは、日々増えていきます。
すべてのファイルを1つのフォルダに保存するのではなく、年度、部門、ファイル種別などの階層ごとにフォルダを作成し、自社に適した管理しやすいフォルダ構成をあらかじめ決めておきましょう。
どこにどのようなデータを保存するかを関係者に周知しておくことも大切です。
ファイル名のルール
フォルダ内でファイルを探しやすくするため、検索に必要な項目をファイル名に含めるなどのルールを決めておきましょう。
規則性があり、内容のわかりやすいタイトルをつけたうえで、データを特定のフォルダに集約しておくと、フォルダの検索機能を利用して検索できるようになります。
データへのアクセス権限
キャビネットに鍵をかけて紙の資料を保管していた場合は、データ化したあとにも同様に閲覧等の制限をかける必要があります。
フォルダごとに誰が閲覧、更新、削除等を行えるのかを明確に決め、それぞれのアクセス権限を適切に設定しましょう。
3-2. これまでの紙の資料をデータ化する
紙で保管していた資料はスキャナーでデータ化し、決めたルールに従って管理できるようにしましょう。
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ScanSnap iX1600はタッチパネルから簡単に操作でき、原稿サイズ、色や両面・片面を自動的に判別します。毎分40枚・80面の両面高速読み取りで、驚くほど簡単、スピーディーにデータ化します。
また、スキャンする際にOCR機能を活用し、検索可能なPDFで保存すると、文書内の文字列からキーワード検索で書類を検索できるようになります。
ScanSnapで「検索可能なPDF」オプションをオンに設定しておくと、スキャンするだけで紙文書を検索可能なPDFに変換できます。
これにより、必要な情報をキーワード検索で見つけられるようになります。また読み取った文字は、入力した文字と同じようにテキストとしてコピー&ペーストも可能です。
3-3. 紙で運用している書類を電子データでの運用に切り替える
日々の業務で運用している紙の書類を、電子データでの運用に移行しましょう。
具体的には、電子ワークフローシステムを導入します。
申請書や見積書、経費精算などの情報をシステム上で入力して社内の申請/承認ルートに沿って承認、決裁できるようにすることで、少なくとも社内での手続きはペーパーレス化できます。取引先から紙の書類で受領した場合でも、スキャンして添付すれば、同じワークフローで処理できるようになります。
このようなシステムの導入により、ペーパーレス化はもちろん、業務全体のスピードアップにもつなげることができます。
4. 活用しやすくなった電子帳簿等保存制度
2021年度改正の電子帳簿保存法が2022年1月から施行されています。
この改正では、電子帳簿等保存制度の各種手続きを大幅に簡素化する見直しが行われており、制度を活用した経理のデジタル化による生産性の向上が期待できます。
4-1. 電子帳簿等保存制度とは、どんな制度?
電子帳簿等保存制度は、大まかにいうと、会計ソフトで作成した情報をプリントアウトせずにデータのままで保存するためのルールや、経費の領収書等をスキャナーやスマホで読み取ったデータで経理処理し、保存するためのルールを定めた制度です。
制度を活用すると便利な点として、
①紙をファイリングする手間や保管スペースが不要になる
②日付や取引先名で検索できることにより、探したい文書がすぐに見つかる
③データ上で経理処理ができるので、経理担当もテレワークがしやすくなる
などがあります。
電子帳簿等保存制度は、「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」の3つの制度からなります。
注意すべきは、電子帳簿等保存とスキャナ保存が、その利用を希望する場合の制度であるのに対し、電子取引データ保存については、紙で帳簿を管理している場合にも対応が必須である点です。
電子帳簿等保存
帳簿(仕訳帳等)や国税関係書類(決算関係書類等)のうち「自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成しているものについては、一定の要件の下、データのままで保存等ができる」とされています。
対象となる帳簿書類や保存要件については、以下を参照してください。
・「はじめませんか、帳簿書類の電子化!」
URL:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/0018004-061_01.pdf
スキャナ保存
決算関係書類を除く国税関係書類(例: 取引先から受領した領収書・請求書等)について、「その書類を保存する代わりとして、一定の要件の下でスマホやスキャナで読み取ったデータを保存することができる」とされています。
対象となる書類やスキャナ保存のための要件については、以下を参照してください。
・「はじめませんか、書類のスキャナ保存!」
URL:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/0018004-061_02.pdf
電子取引データ保存
所得税・法人税に関する帳簿書類の保存義務者は、「取引情報のやりとりをデータで行った場合には、一定の要件の下、やりとりしたデータを保存することが必要」とされています。
保存が必要なデータや保存要件については、以下を参照してください。
・「電子取引データの保存方法をご確認ください」
URL:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/0021011-068.pdf
4-2. 2022年1月施行、電子帳簿等保存制度の見直しポイント4つ
今回の改正における4つのポイントをご紹介します。
①忘れないで!電子取引のデータ保存
電子取引では、追加された要件があります。
2022年1月1日以降の取引については、タイムスタンプや訂正削除履歴等に関するルールに従って「やりとりした電子取引データ自体を保存」する必要があります。
これについては、帳簿類を紙で運用している場合でも対象となるため、注意が必要です。
従来は「電子取引データを紙出力したもののみでの保存」も認められていましたが、廃止されました。(ただし、データ保存に必要なシステムや社内ワークフローがまだ整備できていない場合の経過措置として2023年12月31日までの猶予が設けられています。)
※ 参考:
国税庁 「【令和4年1月更新】教えて!!令和3年度改正 電子帳簿保存法」
URL:https://www.youtube.com/watch?v=pVU_CjU88aY
電子帳簿保存法取扱通達解説(趣旨説明)
URL:https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/031227/pdf/01.pdf
②電子帳簿等保存:対応する会計ソフトの増加
電子帳簿等保存では、電子帳簿として認められる要件が緩和され、現在市場に流通している一般的な会計ソフトについて電子保存が認められるものが増えています。
③スキャナ保存:手続きの簡素化
スキャナ保存では、データ改ざんなどの不正行為に対する罰則が強化された一方で、実務上の手続きが大幅に簡素化されています。
たとえばスキャナ保存する取引書類について、受領者の署名や第三者によるダブルチェックが必要とされていましたが、この要件が廃止されました。また、スキャナ保存や電子取引で扱う書類に必要とされるタイムスタンプ付与の要件も緩和されています。
経理のペーパーレス化を後押しする、スキャナ保存制度の主な変更点についてはこちらをご確認ください。
タイムスタンプの付与については、訂正・削除履歴が残るなど、一定の要件を満たしたクラウドサービスに格納することで、タイムスタンプ付与の代わりとすることが認められています。どのようなソフトやクラウドサービスが要件を満たしているのかについては、以下の国税庁ホームページで確認できます。
JIIMA認証情報リスト
URL:https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/11.htm
④事前承認の廃止
電子帳簿等保存とスキャナ保存について、これまでは制度を利用する前に税務署長への事前承認が必要とされていましたが、この事前承認は廃止されました。この点も、制度を利用するうえでの事務負担の軽減につながると思われます。
4-3. 電子帳簿等保存制度におけるペーパーレス化の注意点
手続きの簡素化や各種要件の緩和により、活用しやすくなった電子帳簿等保存制度ですが、何を、どんな形でデータ化してもOKということではありません。
保存対象となる帳簿や保存要件は、「電子帳簿等保存」、「スキャナ保存」、「電子取引データ保存」のそれぞれにおいて規定されています。利用する制度に応じて要件を確認し、適切に対応しましょう。
5. ペーパーレス文化を根付かせる
新しい文化や習慣は、その便利さと効果を「日常」のなかに実感することで根付いていきます。スキャナーや各種のワークフローシステムなど、日々の業務をスムーズに処理していけるサービスを積極的に利用しましょう。
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