2024.12.3 |
自治体の業務効率化を実現する、アナログ業務からの脱却とペーパーレス化の推進
行政の手続きの多様化を背景に、自治体の役割が複雑化・多様化したことで、各自治体の業務量が増えています。同時に、根強く残るアナログな業務手法により、自治体職員の業務負担も増大しています。これを解消し、業務効率化を実現するためには、アナログ業務からの脱却とペーパーレス化の促進が必要です。今回のコラムでは、自治体の業務効率化を進める具体的な方法とその効果について、事例を交えながら解説します。
CONTENTS
- 2-1. 業務プロセスの見直し・改善
- 2-2. スキャナーの利用による紙媒体の電子化
- 2-3. OCRおよびAI-OCRを使ったデータ入力業務の効率化
- 2-4. RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による業務の自動化
- 2-5. 生成AIを活用した業務の自動化
- 2-6. BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の活用
1. 自治体の業務の現状
1-1. 自治体で業務効率化を求められる理由
(1)労働力不足
自治体で業務効率化を求められる理由としてまず挙げられるのが、「労働力不足」です。現在、日本国内の生産年齢人口(15〜64歳)は、少子高齢化により減少し続けています。自治体でも同様で、慢性的な職員数の不足が原因となり、一人一人の業務の負担を増大させています。
総務省は、令和5年4月1日現在の地方公共団体の職員数は、「平成6年をピークとして平成28年まで一貫して減少し、その後、横ばいから微増傾向。対前年比では、2,068人の減少」にあると発表しています。急速な職員数の増加の見込みは薄いのが現状であり、業務効率化による労働力不足への対応が喫緊の課題となっています。
(2)行政手続きの対応範囲の拡大
現在、自治体の窓口業務では、住民側の働き方の変化や多様化にともなって、各種の行政手続きに関する「対応範囲が拡大」しています。例えば、住民の高齢化による個別サポートや在留外国人への多言語での対応の増加、また、マイナンバーカードや新型コロナウイルスをはじめとするパンデミック対策、待機児童への対応などがそれにあたり、手続きや問い合わせも増加しています。最近では、これらの様々な要素が重なることで職員の業務が圧迫され、以前のような住民サービスが保てないといった課題も浮上しています。
1-2. 自治体で業務効率化が進まない理由
(1)高セキュリティなLGWANの活用
自治体では、地方公共団体を結ぶ総合行政ネットワーク「LGWAN(Local Government Wide Area Network)」を通じて、電子メールやWebサイトなどが利用され、自治体同士のコミュニケーションが行われています。
自治体業務の効率化には、安全性と信頼性が不可欠です。そのためLGWANは、外部インターネットと分離された構造を採用しています。これにより、外部からの不正アクセスリスクを抑え、行政ネットワークとしてのセキュリティ水準が保たれています。
一方で、LGWANの構造では、外部のインターネットと接続ができないため、外部とのファイルのやり取りには特定の手続きが必要となり、通常のネットワークと比較して手間がかかる場合があります。
(2)ペーパーレス化の遅れ
多くの自治体では、いまだ紙ベースの業務やFAXを用いた業務フローなど、アナログな業務手法が根強く残っています。紙文書は、検索性が悪く、管理も煩雑になるため、自治体にとってアナログ業務からの脱却とペーパーレス化の推進は重要な施策となっています。 しかし、予算の制約や既存プロセスへの依存などがデジタル化やDX化進展の妨げとなっている自治体も多く、これがペーパーレス化の進まない要因になっています。
(3)デジタル化やDX化に関する専門知識を持つ人材の不足
自治体の問題点の3つめは、「デジタル人材の不足」です。若年人口の減少にともない、企業間での人材の争奪戦は始まっています。そのため、地方自治体のデジタル化やDX化に関する専門知識を持つ人材の確保は、今後も一層、難しくなることが想定されます。IT技術に精通し、かつ現場の自治体の実情を把握した人材を十分に確保できていないことが、自治体でデジタル化やDX化の推進を阻み、業務効率化が進まない大きな要因となっています。
デジタル人材の不足
総務省が2024年7月に公開した「自治体における生成AI導入状況」によれば、生成AIの導入における課題に対する回答として、「AI生成物の正確性への懸念がある」の562件と「導入効果が不明」の495件に続き、「取り組むための人材がいない又は不足している」が476件でした。このようなデータからも、自治体における「デジタル人材の不足」が浮き彫りになっています。
2. 自治体の業務効率化を進める具体的な方法とその効果
LGWANの利用により、手間が増えてしまうのは仕方がないため、それ以外の部分で業務効率化を進めていくことが大切です。次にその方法と効果をご紹介します。
2-1. 業務プロセスの見直し・改善
業務効率化を進めるためには、既存業務を見直して職員が行う事務処理の内容を明確化する必要があります。これをもとに、新たな作業マニュアル(作業手順や判断基準をまとめた書類)を作成・実行することで、業務プロセスに依存した問題を解消・改善し、業務量の削減と業務の品質の向上、作業時間の短縮を実現して、職員の負担を軽減することができます。
2-2. スキャナーの利用による紙媒体の電子化
自治体に存在する紙の資料や文書を、電子的なデータに切り替え、電子データとして一元管理することで、迅速な検索や問い合わせ対応の時間を短縮することが可能になります。
紙媒体の電子化を効率的に実行できるのが、スキャナーの利用です。この施策は、民間企業でも推進されており、業務効率の向上だけではなく、保管スペースの削減、情報漏えいのリスクを抑制するなど、セキュリティ強化でもメリットが期待されています。
日高町役場様では、日々発生する決裁の回覧・承認・保管をこれまで紙ベースで行ってきましたが、決裁をデータで行う電子決裁の導入に踏み切りました。電子決裁の導入にともない、紙書類をスキャンしてデータ化するための機器が必要となり、役場の各課へコンパクトスキャナーを設置。紙の回覧が不要となり、円滑な決済を実現しました。また、書類の保管量が3分の1に削減され、書類の保管スペース不足も解決の見込みが立ちました。
2-3. OCRおよびAI-OCRを使ったデータ入力業務の効率化
OCRやAI-OCRを活用することで、電子化された画像データやPDFから、文字情報を抽出・認識し、テキストデータに変換することができます。
七尾市の健康福祉部 健康推進課様では、母子保健事業のアンケート回答を集計するために、回答を1枚ずつ手作業でエクセルに転記し、時間と手間がかかっていました。そこで、OCRを導入することで回答内容を効率的に抽出し、作業時間を1/6に短縮しています。
徳島データサービス様では、1~3月の限られた期間で、大量の給与支払報告書を効率的にデータエントリーする必要がありました。給与支払報告書を日中にスキャンして夜間にAI-OCRを実施する時間の有効活用や、レイアウトが統一されていない給与支払報告書の読み取りに特化したAI-OCRを導入しました。結果、業務全体で1.3倍の生産性向上を実現しています。
2-4. RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による業務の自動化
RPA(Robotic Process Automation)とは、人がPCで行っている単純作業を、ソフトウェア(ロボット)が代替し、自動化する技術です。OCRやAI-OCRと連携させれば、テキストデータを自動で業務システムに入力することが可能です。
例えば、「子ども医療費助成制度」や「高額療養費制度」などの医療費助成制度においては、支給申請書に基づく支払い業務の中で、膨大な量のデータ入力、チェック、および修正作業が発生し、職員の大きな負担となっています。これに対して、申請書をスキャンし、OCR処理して記載内容をテキストデータに変換したのちに、RPAを使って業務システムへ自動入力することで、手入力作業やチェック作業を大幅に削減します。
2-5. 生成AIを活用した業務の自動化
生成AIは、多くの自治体で導入が進められており、その活用方法は、資料や文書の作成、企画やキャッチコピーのアイデア出し、問い合わせ対応、保育所への入所選考、介護サービス計画の作成、議事録の作成、インフラ管理文書の読み取りなど様々です。自治体のDXの推進に向けて動き出す中では、窓口手続きのデジタル化やデータドリブンな行政経営に生成AIを活用する事例もすでに現れ始めています。
2-6. BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の活用
自治体の業務効率化を進める方法として、ツール導入のほかにも、紙証憑の電子化やデータエントリー(紙に記載された情報をPCに入力する作業)などの業務プロセスを、外部の企業に委託する方法があります。これをBPO(Business Process Outsourcing)といい、非コア業務にBPOを活用することで、人手不足の常態化や残業時間の増加を解消して業務効率化を実現し、自治体の職員がコア業務に集中できるようになります。
3. 自治体で業務効率化を進めるメリット
3-1. 職員の負担の軽減
自治体の業務には、書類の整理やデータ入力、住民からの問い合わせ対応など、定型的で反復的な業務が多く含まれ、これらの業務を効率化することで、職員が本来集中すべき重要な業務に時間とエネルギーを注げるようになります。
ITツールを導入することで、ルーチン業務の自動化が進み、職員の手を煩わせることなく迅速に処理が行われます。そのため、現場の負担を軽減させ、職員は創造性が求められる業務や、住民サービスの改善に向けた取り組みに集中できるようになります。
3-2. 情報共有の促進
業務プロセスの見直しによって、非効率な作業が改善されるだけでなく、デジタル化とITツールやシステムの導入によってデータの一括管理が可能になるため、業務効率化とともに職員へのスムーズな情報共有を促進することができます。
3-3. ヒューマンエラーによるミスの抑制
ヒューマンエラーには、うっかりミスのような小さなものから、企業に深刻なダメージを及ぼすものまで、幅広い種類があります。問い合わせ業務など、効率化できる仕事はITツールの活用により、ミス発生のリスクを抑制することが可能です。
4. 自治体の業務効率化を進めるポイント
4-1. 現状の業務の棚卸を行い、課題を洗い出す
業務効率化を進めるためには、まずは現状の業務を洗い出し、効率化が急務となっている業務を可視化します。業務を可視化することで、「時間や手間がかかっている業務」や「人手が足りていない業務」が明らかになり、「どの業務やプロセス」の「どこから取り組み始め」「どのように効率化すべきか?」など、具体的な課題と目指すゴールが明確になります。効率化をスムーズに進めるためにも、見直す業務を明確にしてから、実施プロセスを検討していくことが重要です。課題を洗い出した上で、不要な業務や業務プロセスの見直し、ITツールの導入など、課題に合わせた対策を検討します。その際、改善された業務プロセスの実行のために、マニュアル作成や研修などのサポートも組み込みます。
4-2. コミュニケーションを密に取る
ITツールの導入や業務プロセスの改革を実現するためには、「上層部の理解」が不可欠です。また、ツールを実際に業務で使用する「現場の職員の協力」も不可欠です。そのため、上層部や現場とのコミュニケーションを密に取りながら、効率化のメリットを伝え、理解を得た上で進めていく必要があります。
5. 「RICOH fi Series」と「DynaEye 11」で、ワークフローのペーパーレス化とデータエントリー業務の効率化を実現
5-1. ペーパーレス化を強力に支援する業務用イメージスキャナー「RICOH fi Series」
申請書やアンケートなど紙の書類を、スピーディーに電子化するのが、PFUが提供する業務用イメージスキャナー「RICOH fi Series(以下、fiシリーズ)」です。
fiシリーズは、優れた給紙搬送性能で、丸まっている、折り目がついている書類も、安定して読み取ることが可能です。また、高度な「自動二値化技術」により、画像データをシンプルにして文字の視認性が高い画像を生成し、後工程のOCRの文字認識精度を向上させるのが大きな特長です。
5-2. オンプレミス型のAI-OCRソフトウェア「DynaEye 11」
「DynaEye(ダイナアイ)11」は、オンプレミス型AI-OCRソフトウェアです。これまで認識が困難とされてきた癖の強いフリーピッチの日本語の手書き文字や、枠外にはみ出した文字、取り消し線や押印を含む文字も、高精度に認識できるのが特徴です。さらに、活字・手書きマーク・バーコードなど幅広い文字種にも対応しています。99.2%(※当社基準帳票を用いた認識精度結果)もの高精度な文字認識を実現し、業務システムへのデータエントリー業務の効率化を強力に支援します。また、オンプレミス型のため、情報漏えいのリスクがなく、安全に個人情報や機密情報を扱います。インターネットを経由するクラウド型OCRサービスとは異なり、PC内でOCR処理を完結するため、ネットワークの影響を受けずに、スピーディーにOCR結果を確認することができます。
5-3. 給与支払報告書の読み取りに特化したAI-OCRソフトウェア「DynaEye 給与支払報告書OCR」
「DynaEye 給与支払報告書OCR」は、給与支払報告書の読み取りに特化したAI-OCRソフトウェアです。給与支払報告書の特長をAIで学習することにより、自治体や提出する事業者ごとに異なるレイアウトに対応し、高精度な認識が可能です。
6. まとめ
自治体が、人手不足に加えて、多様化する住民ニーズへ対応するには、業務の効率化が欠かせません。そして、業務効率を向上させることで、自治体で働く職員の負担の軽減にもつながります。
PFUは、業務用イメージスキャナー「RICOH fi Series」や、オンプレミス型のAI-OCRソフトウェア「DynaEye 11」、および給与支払報告書の読み取りに特化したAI-OCRソフトウェア「DynaEye 給与支払報告書OCR」のご提供を通じて、自治体の業務効率化をサポートいたします。